VISION
宝野理事長に聞く

2023年4月からスタートした第5期中長期計画。第4期からの変革点は? NIMSが描く戦略とは? 宝野和博理事長に聞いた。

宝野和博Kazuhiro Hono

物質・材料研究機構(NIMS)理事長 1988年、ペンシルベニア州立大学にて博士号を取得。 東北大学金属材料研究所にて研究に従事した後、1995年にNIMSの前身である金属材料技術研究所に入所。金属系材料、特に磁性材料の研究に携わり、リーダー職を歴任してきた。2004年からNIMSフェロー、2018年から理事。2022年4月、理事長に就任した。

Q1
研究体制、どう変わった?

材料科学分野で世界トップレベルの成果を引き続き挙げていくと同時に、産業界に必要とされる基盤研究に、より積極的に貢献していきます。そのために、これまでの6拠点体制を再編し7つの研究センターを設置しました。各センターで設定した、計12の研究プロジェクトを推進しています(次号以降で詳しく紹介)。大きな変革点のひとつが「高分子・バイオ材料研究センター」の新設です。これまで各拠点に点在していた高分子材料とバイオ材料の専門家を一組織に集め、専門用語をお互いに理解しあえる研究者を組織化し、超高齢化社会に求められる材料開発を行なっていきます。また、「マテリアル基盤研究センター」には最先端解析技術およびデータ駆動型材料開発手法の専門家を集約し、他センターでの材料開発に共通して必要とされる基礎・基盤的な研究を推進していきます。

Q2
特に注力する研究課題は?

あらゆる社会課題を「材料の力」で解決に導くことがNIMSの使命です。これを確実に果たすため、地球規模の課題解決に資する材料研究を重点プロジェクトに位置づけ、分野横断で取り組んでいます。今期は「カーボンニュートラル」「バイオマテリアル」「量子マテリアル」「マテリアル循環」の4プロジェクトを設定しました。「カーボンニュートラル」では、蓄電池や水素エネルギーといった温室効果ガス排出の抑制に資する材料を、「バイオマテリアル」では超高齢化社会のなか健康寿命を延ばすバイオ材料の研究を推進中です。また、時代に革新を起こす基礎研究として、量子現象の制御により新機能を発現する「量子マテリアル」の探求をより一層深めていきます。「マテリアル循環」は2024年度からの始動を予定しており、資源リサイクルにつながる材料の創出によりSDGsの達成に貢献します。

Q3
データ駆動型の材料開発、どう進める?

NIMSは国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」(第1期、2014~2019年度)および「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ(MI2I)」(2015~2019年度)を皮切りに、AIや機械学習を活用した「データ駆動型」の材料開発にいち早く取り組んできました。その成果として世界最高レベルの断熱材料を見出したほか、自動化した実験装置とAIを組み合わせて全自動探索を行うスマートラボラトリの構築を積極的に推進し、蓄電池用新規電解液を見出すなど、数々の成果が出始めています。

データ駆動型の材料開発手法を我が国全体に広げるべく、NIMSは「データ中核拠点」の役割を担い、材料開発に資するデータの集約に尽力しています。特に、文部科学省委託事業「マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)」では全国の共用装置から創出されるデータを、「データ創出・活用型マテリアル研究開発プロジェクト(DxMT)」では5つの材料開発課題を推進する機関から創出されるデータを、効率よく収集・蓄積する仕組みを構築します。そして、我が国を代表するデータプラットフォームへと成長させていきます。データ駆動型材料開発の手法の開発は「マテリアル基盤研究センター」で取り組んでいきます。

Q4
研究成果を社会へつなげる上での戦略は?

NIMSはこれまで、企業各社との連携センターや、“同業多社”が協働して基礎研究を行うマテリアルズオープンプラットフォーム (MOP)を通じ、産業界との連携を強化してきました。

一方で、既存の企業では実現できない独創性の高い技術の場合は研究者自らによる社会実装への取組みが必要となります。素材産業の場合、サンプル出荷の段階から大きな設備投資を要することから、スタートアップへの公的支援も有効といわれています。

NIMSはこれまで講じてきた独自の支援策「NIMS発ベンチャー支援制度*」をさらに充実させていくほか、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」第3期課題「マテリアル事業化イノベーション・育成エコシステムの構築」(プログラムディレクター木場祥介氏)を、研究推進法人として支援していくことになりました。マテリアル分野のユニコーン企業を創出するため、様々な研究機関や大学の研究者にNIMSのデータプラットフォームを活用していただき、オーダーメイドのデータ駆動型ツールを提供するといった挑戦的な取り組みです。このSIPプログラムの推進を通して、NIMSとしてもスタートアップ支援のノウハウを蓄積できると期待しています。

*NIMS発ベンチャー支援制度…研究成果の普及を目的にNIMS研究者が立ち上げた企業を支援。起業から5年間(審査を経て3年延長可、最長8年間)にわたり、研究設備使用料の減額やアドバイザーによる経営指南などにより経営をサポートする。

Q5
機構運営において重視している点は?

私が何より重視しているのは「人」です。NIMSの研究力とはすなわち人材力であり、研究者が研究に専念し、能力を遺憾なく発揮できる環境を提供することが我々経営陣の使命です。研究者には各々、国の戦略にもとづき運営費交付金で推進する「ミッション研究」に参画してもらうと同時に、個人の自由な発想による研究に対する支援もNIMSの自己収入でしっかり行なっていきます。

また、研究者やエンジニアのリクルーティングにおいては、優秀な人材を迅速に採用できるよう採用制度を見直しました。年2回行ってきた研究者の定期採用以外にも、職員から推薦のあった人材を随時採用できる制度を導入しました。その際、中途採用者が不利にならない待遇の提示を可能にするなど、採用制度の柔軟性を高めています。加えて、任期制事務業務員の標準給与額を見直し約20年ぶりに改訂したほか、若手研究者の待遇改善、業務のDX化など、持続的かつ魅力的な職場環境の整備に力を注いでいます。

Q6
改めて、第5期発進にあたりメッセージを。

NIMSには、博士課程修了後10年以内の研究者が独自のテーマで研究できる「若手国際研究センター(ICYS)」の運営で培ってきたノウハウがあり、若手研究者が国際的・学際的な環境下で、雑事に追われることなく研究に専念できる場を提供します。また、年齢を問わず国際的な水準の処遇が可能です。柔軟な組織編成により、優れたリーダーが率いるグループは大きく成長できる仕組みになっています。時代に即した新たな課題に挑戦し、将来志向の材料研究を発展させられる研究者が、NIMSをキャリア形成の場として選んでくださることを期待しています。