Part1| NIMSの研究体制
7つの研究センター発足
社会課題の解決という使命のもと、材料開発を推し進めるNIMS。次なるステージに向け組織を再編し、7つの研究センターを設置した。
カーボンニュートラルやSociety 5.0の実現に各々の切り口で挑む7つの研究センターの概要をご紹介。

電子・光機能材料研究センター
社会発展の起爆剤となってきた電子材料と光学材料。持続的な発展のため、材料の革新が待ち望まれています。本センターでは、高電圧・高温・高速といったシビアな環境のもと動作する次世代通信用の半導体素子をはじめ、サイバー空間と実空間をつなぐ映像機器用の蛍光体、レーザー光源用単結晶の開発など、多岐に渡る材料開発により社会システムの変革に挑みます。同時に、社会の安心・安全を守るセンサ材料の感度や信頼性の向上と、資源循環を考慮した材料開発に取り組みます。そして、これら材料開発の過程で得られる知見をデータとして収集し、NIMSのデータプラットフォーム構築にも貢献していきます。
構造材料研究センター
構造材料は、社会インフラを支える極めて重要な基盤であり、その性能が10年単位の長期にわたって安定して発揮されることが求められます。本センターでは、インフラや輸送機器、エネルギー創製に関わる技術を対象に、材料の高性能化とそれを支える周辺技術を開拓します。例えば、ビル・橋梁などを巨大地震から守る耐震材料、輸送機の軽量化に不可欠な高比強度材料、さらにはジェットエンジンの高効率化に必須な超耐熱材料の開発を推進しています。加えて、極低温環境下における材料の耐久性を高め、水素インフラの構築に貢献することを目指すほか、材料の特性評価・寿命予測技術の高度化により社会の安心・安全を守ります。


エネルギー・環境材料研究センター
再生可能エネルギーの利活用の最大化に向け、本センターが総力を挙げ取り組むのが電池材料と水素関連材料の基盤研究と開発です。電池材料は、現行のリチウムイオン電池を凌駕する先進リチウム電池や全固体電池、新原理の革新電池、太陽電池などの研究開発を推進します。また、次世代エネルギーのもう一つの柱である水素については、その安定利用を可能にする水素製造用の触媒材料や、水素の貯蔵・運搬性向上をねらったNIMS独自の液化技術「磁気冷凍システム」の構築などを目指します。さらに、センター内にはJST委託事業を推進する「先進蓄電池研究開発拠点」を設置。革新電池の創出から社会実装までオールジャパンで達成すべく、産官学のハブとなり研究開発を牽引しています。
磁性・スピントロニクス材料研究センター
持続可能社会の実現に、磁性材料やスピントロニクス素子は大きく貢献します。エネルギー関連ではモーターやハイブリッドカーに用いられる永久磁石材料が、電子情報分野では、磁気記録媒体や不揮発性磁気メモリ用の磁気抵抗材料・素子が代表例です。本センターでは、それらの飛躍的な性能向上や新規用途の開拓に向けて多彩な基盤研究を展開します。近年の取り組みとして、磁気と熱、磁気と光に関するトピックに注力しています。その知見を礎に、重希土類フリー永久磁石や磁気冷凍材料などのいわゆるグリーン磁性材料のほか、次世代情報ストレージや磁気メモリ用の新規材料・素子の研究を推進し、実用化への道を切り拓いていきます。 さらに、センター内には文科省委託事業を推進する「データ創出・活用型磁性材料研究拠点(DXMag)」を設置し、先駆的なデータ駆動型研究手法の開発を行います。


高分子・バイオ材料研究センター
今回新設となる本センターでは、高分子材料の研究者とバイオ応用を見据えた研究者が一丸となり、素材革命をもたらすソフト・ポリマー材料と、ウェルビーイング*な社会を実現するバイオ材料の研究・開発を行います。具体的には、有機材料の高度合成技術と、反応・構造の制御技術、物性評価技術を駆使し、高分子材料を生み出す上で基盤となる技術の確立を目指します。また、NIMSが独自に培ってきた有機・無機・バイオ・ハイブリッド材料設計技術を強化していくことにより、生命・生体現象に呼応して機能を発現し次世代医療の足がかりとなる材料の創製に尽力していきます。
*ウェルビーイング…人が肉体的、精神的、社会的、すべてにおいて満たされた状態(世界保健機構による定義)
ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)
ナノスケールのパーツを精密に合成・集積して新物質をつくり出し、先鋭的な新機能を持つ材料の実現を目指す「ナノアーキテクトニクス(ナノの建築学)」。WPI拠点*設立当初からかかげてきたこの理念の具現化に向け、引き続きボトムアップ型の基礎研究を推進します。例えば、ナノ界面や欠陥の制御による新材料探索のほか、ナノ材料の次元制御による新物性の開拓、新原理の構築を進めています。さらに、量子技術のニーズが高まる中、新しい量子応用を可能にする物質の創製を目指し、重点プロジェクト「量子マテリアル」(右ページで紹介)にも注力。既成概念を打ち破る材料の創出に挑みます。
*WPI拠点…文科省事業「世界トップレベル研究拠点プログラム」の推進拠点。2007年に設立されたMANAは10年のプログラムを満了し、現在はWPIアカデミーとなり国際研究拠点としての活動を継続中。


マテリアル基盤研究センター
本センターは先端的な解析技術の専門家と、データ駆動による材料設計の専門家を結集した新組織です。様々な物質・材料に共通する基礎基盤研究を担当し、研究開発スピードを大幅に加速させていきます。先端解析分野では、マルチスケール計測技術や、デバイス動作中の物質の挙動を捉えるオペランド計測技術など、物質・材料の本質にあらゆる角度から迫る解析技術を開発します。材料設計分野では、先端解析技術を取り入れたデータ駆動型手法の開発や、ハイスループットデータ収集技術の開発、種々のデータベースを連携させるための材料知識基盤の構築を行っていきます。
重点プロジェクト
人類が総力を挙げて取り組むべき課題を材料の力で解決に導くため、NIMSが分野横断で推進するプロジェクトをご紹介。
カーボンニュートラル
脱炭素に向け、再生可能エネルギーの有効利用や水素インフラの構築が急がれる。本プロジェクトのターゲットは「蓄電池」「太陽電池」「水素関連材料・技術」だ。「蓄電池」「太陽電池」には、データ駆動型研究開発手法でアプローチする。高いイオン伝導度を持つ酸化物全固体電解質の開発や、高エネルギー密度蓄電池用の電極材料・液体電解質の探索を実施している。また、ペロブスカイト型太陽電池について、デバイス作製プロセスにおける複合的要因を制御することで、発電効率の飛躍的な向上に挑戦中だ。
一方、「水素」については、高効率な水素冷却・液化を可能にする「磁気冷凍システム」の開発や材料探索、データ駆動による水分解用電極触媒の探索、構造用金属材料の水素脆性に関する学理追求といった多角的な研究開発を展開。さらに、水素エネルギー利用を視野に、データ駆動で超耐熱材料の設計を行う特性予測プログラムを開発中だ。
バイオマテリアル
来たる超高齢化社会、医療の選択肢の拡充は人々に“よりよい生”をもたらす。NIMSは独自材料の深化によってそれを実現するべく、バイオマテリアル(生体材料)と工学の融合を進めている。現在、センサ系と治療系に大別される5課題を推進中だ。
センサ系としては、呼気などの生体ガスを検出する「膜型表面応力センサ(MSS)」と、体内の水分量や特定マーカー分子などを検知するセンサについて、システムの開発に加え、測定結果のAI解析などにより予測精度を高め、未病や病気の早期発見を目指す。治療系としては、生体内の分子から臓器まで、各階層に物理刺激を与え治癒を促す材料、薬剤放出/発熱・接着・組織の再生など複数の機能を併せ持つ抗がん材料、生体微粒子解析や病変組織診断に有用な光機能性材料などの開発により、低侵襲医療の提供を目指す。
量子マテリアル
量子状態を精密に制御することで機能を発現する「量子マテリアル」。NIMSでは材料創製、計測・評価、理論と、様々な側面からこれに取り組み、既存の材料・技術では成し得ない画期的な社会課題の解決法を導く。
一例としては、ダイヤモンド結晶中にごく少量の窒素(N)と空孔(V)が隣接し存在することで量子状態が保持される「NVセンタ」を精密につくり込む合成技術の高度化を進め、量子センサや量子メモリ応用の足がかりを築く。また、NIMSで高純度化を進めてきたワイドバンドギャップ半導体である六方晶窒化ホウ素と、グラフェンなどを用いた2次元系積層デバイスについて、先端評価技術を駆使した新奇量子物性の開拓などに挑戦中だ。量子状態を発現するコア材料やその土台となる基板材料から、その周辺技術や理論まで、基礎基盤の構築を目指す。
2024年始動予定:マテリアル循環
資源のリサイクルを促進するため、使用時は強固に接合しつつも廃棄時に容易に分離できる材料など、物質・材料の特性を熟知したNIMSならではの研究課題に取り組んで行きます。
