
フランツ・J・ギーシブル 教授Dr. Franz J. Giessibl
レーゲンスイブルク大学 実験応用物理学研究所 教授
非接触原子間力顕微鏡法の革新によるナノ材料研究への貢献
Research Summary
フランツ・J・ギーシブル氏は、探針と試料を触れさせずに両者間に働く力の変位を検出する、非接触型の原子間力顕微鏡法(AFM)を確立し、世界で初めて真空環境で原子分解能を達成した。その後、高い剛性を備えた「チューニングフォークセンサ(qPlus Sensor)」を開発。従来のAFMに用いられてきた「カンチレバー型センサ」より微小な振幅を実現し、近距離の力の測定精度を高めたことにより、原子のハイコントラスト観察を可能にした。また、qPlus Sensorは検出器に依らず、力の変位を自己検出できる。これにより、極低温環境での使用が可能になり、分子の内部骨格の観察が実現した。現在、極低温・高真空環境で動作するほぼすべてのAFMにqPlus Sensorが導入されている。さらに、高分解能計測に必要な理論を提唱するなど、ナノサイエンスの発展に貢献している。
―受賞の感想をお聞かせください。
優れた科学技術を有する日本の研究所から栄誉ある賞をいただき、本当に光栄です。また、東京オリンピックと同じ、都市鉱山からリサイクルした金を用いたメダルを受け取り、喜びと感謝でいっぱいです。というのも、2021年にタイでトライアスロンのトレーニングをしていた際、前年の東京オリンピックの水泳チームと知り合い、限界を超えて練習する彼らの姿に大いに刺激を受けていたからです。同様の手法でつくられたメダルをいただけて、大変うれしく思います。
―qPlus Sensorの着想から高分解能観察に至った経緯は。
博士号取得後、米・パーク・サイエンティフィック・インスツルメンツ(PSI)社に入社し、AFMでSi(111)-(7×7)表面の原始分解能観察に成功したあと、同じ規模の目標を見出すまでには少し時間がかかりました。ただ、このAFMに使われていたピエゾ抵抗シリコンカンチレバーの振幅を、原子直径ほどまで小さくできれば、よりハイコントラストな原子像が得られると確信していました。そのためにはカンチレバーの高剛性化が必要で、開発者であるスタンフォード大学のクエート教授に実現可能性を尋ねたところ、「製作は可能だが6万ドルほど予算がかかる」と答えが返ってきました。当時、それほどの予算はありませんでしたし、低温での動作を目指し、ピエゾ抵抗方式よりもジュール発熱が少ない新たな検出方式を見つけたいとも考えていました。
その後、マッキンゼーに転職した私は、経営コンサルタントとして数々のベンチマーク調査を行う過程で、「AFM以外にも安定した周波数測定を要する分野はあるか」に着目しました。そして思い至ったのが、昔からある「時計の時間計測技術」です。なかでも、1970年代の「クオーツ時計革命」に注目しました。オーツ(水晶)時計では、真空状態の金属管の中に封入されたU字形の水晶振動子が圧力を電気信号へと変換し、歯車の動力を生み出しています。水晶振動子は、熱を発することなく振幅に比例した交流電流を生成できるため、低温での動作にも適しています。
実際に時計を分解してみると、水晶振動子の剛性は理想に近いことが分かりました。これがAFMの観察に応用可能かどうか検証するため、マッキンゼーから有給・無給の休暇をいただき、自宅で理論的な考察を進めました。次いで、独・アウグスブルク大学の教授職に就いた私は、中古のPSI社製真空AFMを購入し、qPlusが動作するよう改造しました。ほどなくしてqPlus AFMは原子どころか、原子内に原子雲までも解像できることを実証したのです。
―今後の目標をお聞かせください。
私が所属するRegensburg center for ultrafast nanoscopyにおいて超高空間分解能と超高速時間分解能を両立する観察手法を開発すること、大気中や電気化学的環境下でのqPlus AFM観察手法を確立すること、より多くのユーザーが原子分解能や原子未満の分解能をもつAFMの恩恵を受けられるよう、AFMを簡素化することを目指しています。
