Vol.23 No.4
CRYSTALS「結晶」から未来を読み解く
ありふれた「粘土」が、未来のデバイスに!?
佐久間 博Hiroshi Sakuma
資源循環材料グループ 主幹研究員

「粘土鉱物」とは科学的にいうと、ナノシートが層状に重なった物質です。層間にイオンを吸着・保持する性質を持ち、私たちの日常の中でも主に吸着剤として大いに活躍しています。粘土鉱物の中でも、私たちグループが注目しているのが「マスコバイト」です。ごく最近、マスコバイトを20層から10層へと薄くすると、電気伝導性が大幅に増大するという報告があったのです。では、もっと薄くしたらどうなるのか——新しい物性の出現を求めて、私たちはこれを単層まで剥離する技術の開発に挑んでいます。マスコバイトは層間の結合力が強く、極めてはがしにくい物質ですが、これまで開発してきた数々の剥離技術をもとに糸口を探っているところです。ほかにも興味深いのが、表層に形成される「リプロケーション」という構造。最表面の一部が波のように浮き上がったこの構造が革新的な機能の源になるのではないかと、構造と物性の関係解明に挑んでいます。耐熱性が高く、化学的に安定で資源が豊富。そうした粘土鉱物本来の利点に、電気特性などの新たな価値を与えることで、次世代パワーデバイスなど革新的な応用先を開拓したいと、日々研究を続けています。

光の波長より小さな結晶粒で次世代のレーザー材料を!
古瀬 裕章Hiroaki Furuse
高機能光学セラミックスグループ 独立研究者

高出力レーザーの要、「レーザー媒質」として活躍する透明セラミックス。わずかな結晶の乱れも光の散乱を招くため、一般のレーザー媒質には単結晶が用いられます。一方、大口径化や作製コストの削減には多結晶のセラミックスが有利です。とはいえ、微小な単結晶(結晶粒)の集合体である多結晶には、空気の孔や組成の異なる結晶粒が混入しやすく、光の散乱源となります。特に、立方晶構造以外の結晶ともなれば、結晶粒の間で光の屈折率に差が生まれるため、レーザー媒質の実現は非常にハードルが高いのです。それらの克服法の1つが、結晶の粒径を光の波長より小さくして隙間なく焼き固めること(下図)。私は「レーザー工学」を専門に、原料粉末の粒径や形状を制御する「粉体工学」、焼結プロセスを設計する「粉末冶金学」に立ち返り、透明化に最適な条件を追究してきました。かつて、液相合成した直径約50 nmの「フッ化アパタイト(FAp)」の微粒子を「放電プラズマ焼結」という手法で焼結し、レーザー発振を実現した実績があります。FApは六方晶構造で、「多結晶を用いたレーザー発振には立方晶体であることが必須」という常識を打ち破り、非立方晶体によるレーザー発振を実現したのです。今後さらに、単結晶並みの高品質化と次世代のレーザー開発を目指します。

脳型コンピュータに近づいた!
電子を“誘う”結晶。
清水 荘雄Takao Shimizu
電子セラミックスグループ 独立研究者

結晶の中には、電荷の偏り(極性)を持つものがあります。中でも、電圧をかけると極性が反転し、なおかつ電圧をゼロにしても極性を保つ結晶が「強誘電体」。この性質を活かし、極性の向きで“0・1”の情報を記録する不揮発性メモリが実用化されています。そのさらなる飛躍の分かれ目となるのが、強誘電体膜の膜厚を薄くできるかどうか。優れた強誘電性を示す結晶でも、ナノレベルまで薄くすると極性を失ってしまうものも多いのです。そこで私は「ウルツ鉱型構造」に分類される結晶の一つ、「窒化アルミニウムスカンジウム[(Al,Sc)N]*」について、AlとScの配合比や膜厚を変えた結晶を作製し、その誘電性を調べました。そして、膜厚9 nmでも強誘電性を発現できることを世界で初めて実証しました。この薄さは、それまで強誘電性として報告されていた(Al,Sc)N結晶の10分の1以下。高集積化と低消費電力駆動の要請がとりわけ強い「脳型コンピュータ」への応用も射程に入るほどの薄さです。今後、さらにウルツ鉱型結晶の物性解明を進め、革新的なデバイス応用へと発展させていきたいと思っています。
*窒化アルミニウム(AlN)をベースに、Alの一部をScに置き換えたもの。

“ねじれ”で世界をもっと鮮やかにする!
中西 貴之Takayuki Nakanishi
次世代蛍光体グループ 主任研究員

液晶ディスプレイの中で豊かな光を放つ蛍光体。その色純度や発光効率の向上に向け、私が研究開発を進めているのが「希土類錯体」です。エネルギーを光に変えて放出する「希土類元素」と、あたかもアンテナのように、外部からのエネルギーを捉えて希土類に渡す「有機分子」から成ります。この蛍光体の性能を決定づけるのが、各パーツの配置。たとえば、希土類元素と直接結合する原子の位置はエネルギー遷移を左右します。また、相互作用の種類や数は、結晶の安定性に直結します。私は綿密な仮説をもとに分子設計を行い、オリジナルの蛍光体を創っています。その一例が、フッ素を主骨格とした二核型の蛍光体です(下図)。この蛍光体では、希土類元素を取り囲む酸素原子を少しねじったように非対称に配置した上、フッ素を含む分子構造においても“ねじれ”を導入し、分子間相互作用を調整。高い発光効率と、320℃を超える耐熱性とを併せ持つ蛍光体の開発に成功しました。この蛍光体の特長の1つが、溶媒に溶けること(p2に写真)。透明発光ディスプレイから化粧品まで幅広い活用を見据え、応用先の開拓に注力しています。

希土類元素(青色)を中心に、酸素原子(赤色)を非対称に配置したほか、分子の結合角度や距離の制御により、振動が生じにくく熱に強い剛直な格子構造を実現した。