Vol.23 No.5
未来の担い手たち次世代構造材料の開発に向けた若き研究者たちの挑戦をご紹介。

Tomotaka
Hatakeyama
畠山 友孝
クリープ特性グループ 研究員
ターゲットは積層造形材!
金属組織と長時間クリープ強度の関係を解き明かす
金属の積層造形手法「レーザ粉末床溶融結合法(L-PBF)」は、複雑な構造を一体成型できる画期的な技術です(模式図はこちら)。ただし、高い信頼性を要する部品にこの造形法を適用するには、その金属組織と特性との関係について、学理の構築が不可欠です。
私は現在、L-PBFにより造形した耐熱鋼(改良9Cr-1Mo鋼)の長時間クリープ試験を実施しています。クリープ試験とは、高温下(500~700℃)で試験片を一定の力で引っ張り、伸びの変化や破断までの時間を測定する試験です。この鋼の通常製法材(鋳造・圧延・熱処理材)はマルテンサイト単相組織ですが、L-PBF造形材には、局所加熱と超急冷の繰り返しにより、マルテンサイト相とフェライト相からなる複雑な二相組織が形成されます。一方、二相からなるL-PBF造形材に熱処理を行うと、通常製法材と同様の、マルテンサイト単相組織が得られます。これらの金属組織を持つL-PBF造形材が、通常製法材と同等の信頼性を持つのか――長時間クリープ試験により評価することで、積層造形材の適用範囲の拡大に貢献していきます。

Kazuho
Okada
岡田 和歩
鉄鋼材料グループ 研究員

高強度で水素に強い鉄鋼材料を。
ミクロ組織の制御で破壊を抑制する
水素の侵入によって材料の強度特性が低下してしまう現象「水素脆化」は、水素エネルギー活用の機運が高まる中、鉄鋼材料開発の難題として立ちはだかっています。というのも、鉄鋼材料を高強度化すると耐水素脆化特性が低下してしまうという、トレードオフ問題があるのです。そこで私は、これを打ち破るために、鉄鋼材料の変形・破壊に水素が及ぼす影響を調べています。
最近の研究では、低炭素マルテンサイト鋼(代表的な高強度鋼)に簡単な熱処理を行い、結晶粒同士の境目(粒界)に存在する炭素を増加させることで、強度を保ったまま耐水素脆化特性を向上させることに成功しました。炭素の増加によって、破壊起点である粒界の結合が強化されたとともに、粒界に水素が集まる現象が抑制されたことが、特性向上のメカニズムであると考えています。他にもさまざまな観点から、高強度と高破壊耐性を両立する鉄鋼材料開発のヒントを探っています。



Kentaro
Wada
和田 健太郎
極低温疲労グループ 研究員
低温環境で水素脆化はどう進む?
特性データの蓄積で水素社会に貢献する
私も岡田さんと同様、「水素脆化」をテーマに、低温環境での材料評価試験に取り組んでいます。現在、水素インフラ用製品の強度設計を行う上で課題となっているのが、耐水素脆化特性データの不足です。特に、水素運搬の効率化に最適な液化水素は、−253℃もの極低温。水素インフラを整備する上で、低温環境における材料の特性評価は急務なのです。
試験の一例が「低ひずみ速度引張試験」です。液体窒素(沸点−196℃)などの寒剤の中で、水素をあらかじめ吸蔵させた金属材料に引張負荷をかけ、極低温環境において水素脆化がどのように生じるかを調べています。破断後には、走査型電子顕微鏡(SEM)などを駆使して壊れた材料を観察し、「なぜ水素が材料特性を低下させるのか」にも迫っています。他にも、破壊靭性や疲労特性など、製品の設計に不可欠なデータの取得を進めており、日々、材料の水素適合性と向き合っています。
