Vol.24 No.1
未来の担い手たち次世代エネルギー材料の開発に向けた若き研究者たちの挑戦をご紹介。

Marcela
Calpa
マルセラ・カルパ
固体電池材料グループ 研究員
最先端の環境で電池の高性能化に挑む
私は博士号を取得後、2021年にNIMSに着任し、電池の電極材料の探索を進めています。特に、正極材料の候補として注目しているのが“リチウム過剰系”の材料です。充放電を担うリチウムを多く含むことから電池の高容量化が期待できますが、その難点は、充電時(行き)は高い電圧を要する一方、放電時(帰り)に取り出せる電圧が低いこと。「電圧ヒステリシス」と呼ばれるこの現象の存在は、エネルギーロスにつながります。その解決策を求めて、ルテニウム酸リチウムをモデル材料とし、充電と放電における結晶構造の変化の違いを詳細に調べました。
その際、特に活躍したのが「高エネルギーX線回折装置(写真)」です。これに久保田圭主任研究員が独自開発した測定セルを用いれば、従来法よりも極めて高強度・高精度かつ、リアルタイムな計測が可能なのです。実際に、今回の分析でも結晶構造の変化がはっきりと捉えられ、電圧ヒステリシスの原因について通説を覆す結果が得られました。NIMSでは、高性能な装置が数多くそろうだけでなく、それらを用いた分析手法の高度化も同時に研究されており、まさしく最先端の研究環境の中で材料開発できます。この環境を活かして、材料の構造と物理的・化学的特性との関係を解明し、優れた材料を設計していきたいと思っています。
〈関連プレスリリース〉次世代リチウムイオン電池正極材料における充放電エネルギー効率低下の起源を解明

Kei
Kubota
久保田 圭
電池材料解析グループ 主任研究員

独自の分析技術で“なぜ”を追究し
新材料を生み出す!
私は材料合成を専門に、リチウムイオン電池とナトリウム(Na)イオン電池の高性能化を目指し、正極や固体電解質用のセラミックスの創製に取り組んでいます。その際、重視しているのは“なぜ”の追究です。既存材料の問題点やその原因、高性能化に関わっていそうな因子を徹底的に分析し、それに基づき材料合成を行うのです。そのため実験室の装置のほか、放射光施設や中性子施設の大型装置を活用した、新たな分析技術の開発も積極的に進めています。
中性子による分析では、長寿命なNaイオン電池を実現するとして注目を浴びる「多元素系材料」の充放電メカニズムの解明に成功しました。これまで、長寿命化の由来は「遷移金属の配列の乱れ」にあると考えられてきましたが、遷移金属が規則配列した長寿命な新材料をつくり分析することで、長寿命化の本質は、電池反応に不活性な元素の影響で生じる「電子状態の乱れ」にあることを突き止めたのです。また、材料の合成反応中のリアルタイム計測も注力しているテーマです。合成は高温下で行うため、試料を固定する器具まで反応してしまうなど難易度が高く、世界でも成功例はありません。合成環境を忠実に再現し、高精度な計測手法を確立したい。そして、国内唯一の“物質・材料”の専門研究機関であるNIMSに身を置くからには、やはり新材料の創製へとつなげていきたい。そんな信念を胸に、日々挑戦を続けています。


Toshihiko
Mandai
万代 俊彦
二次電池材料グループ 主任研究員
実用化の壁と対峙し
「元素戦略電池」の未来を切り拓く
リチウムの枯渇リスクが高まる中、地球上に豊富な元素を利用した「元素戦略電池」を実現すべく、新規電解液や電極材料を開発しています。もともと構造物理化学が専門で、そこで培った錯体や溶媒の構造とその性質に関する多角的な専門知識と材料合成技術を設計開発に取り入れられること、そして特性評価の結果をすぐさま分子設計にフィードバックできることが強みです。
マグネシウム(Mg)金属を負極材料に用いた「Mg電池」では、計算科学の専門家と連携し世界最高性能の電解液の開発に成功しました。負極における反応効率99.5%を誇るこの電解液は、国が主導する大型の電池開発プロジェクトで標準電解液に採用されています。加えて、Mg金属負極が大気下で不活性化してしまう現象を、人工亜鉛被膜の形成により抑制することにも成功しました。これは、既存のリチウムイオン電池の生産ラインをMg金属電池に転用する道を拓く画期的な成果です。
これら研究開発において私が強く意識しているのは「真に実電池化に資する材料・技術」であること。今後はさらに共同研究者との連携のもと、電池の動作環境下で起こる現象に「オペランド計測技術」で迫り、材料設計の最適化へとつなげていきます。
〈関連プレスリリース〉マグネシウム金属蓄電池をドライルームだけで作製可能にする基盤技術の開発

Ken
Sakaushi
坂牛 健
界面電気化学グループ 主幹研究員

“進化するAI”との協働で
「水電解」を加速する!
水を電気分解する「水電解」は、CO2を排出しないグリーン水素製造法として期待の高い技術です。しかし、その高効率化には高価で希少な白金族元素が電極触媒材料として不可欠なのが現状。世界中の研究者が、汎用元素から成る新しい電極触媒材料の発見にしのぎを削っており、私もその一人です。現在、データ科学の専門家、田村亮と共同で人工知能(AI)を活用した高速探索に注力しています。実際に、白金族元素型の既存材料に匹敵する活性を示す新材料を発見しました。それも、人手で網羅的に行えば6年近くかかる規模の探索に対し、要したのはたった1カ月。成功のカギは“進化するAI”と人の協働にあります。
大まかにいうと、まず人間が汎用元素を11個選定し、そこから5元素ずつ組み合わせて3000個程度の候補物質を設定。その中から10 個を無作為に選び実際に合成、かつ電気化学特性を評価した結果を、最初のAI(1st AI)に学習させます。AIは学習に基づき、3000個程度の中から有望であろう物質を予測。それを再び人間が合成・評価しAIに学習させるプロセスを繰り返します。そうして十分な量のデータが得られたら、1st AIを次の2nd AIへとアップグレードさせ、予測精度を高めていく――。まるで哺乳類が複雑な機能を習得する際、段階的に進化を遂げるように、データ量に応じてAIのアルゴリズムを進化させるのです。人手を要したのは、3000個程度のうちわずか2%についての実験だけ。今後、この手法を多様な材料へと適用し、水素社会の実現に貢献していきます。
〈関連プレスリリース〉進化するAIがエコな水素の普及のための新規材料開発を支援する
