Project leader

内藤 昌信
Masanobu Naito

未来の変革を目指して
ソフトマテリアルの階層制御で未踏機能を引き出す

体温や心拍をモニタリングするウェアラブルセンサや曲がるディスプレイ――これらの素材であるやわらかな「高分子材料」は、私たちの生活を豊かで便利なものにしてきた。このような生活変容を生み出す「素材革命」を目指し、本プロジェクトでは分子からデバイスまでをシームレスに結びつける基盤技術に取り組んでいる。

具体的には、高度な分子技術を駆使し、導電性高分子、超分子、液晶分子、錯体分子など多様なソフトマテリアルを創製し、それら分子が宿す未踏の物性や機能を開拓する。さらに、集積技術や成膜・素子化プロセスを通じてそれらをデバイスへと昇華させることで、高感応性、動的特性、イオン伝導性、自己修復性といった革新的な機能を備えた材料を実現する。この各階層における制御を通じて、ソフトマテリアルが描く未来の可能性を大きく広げていく。

2色のゲルの断面を押し付けるだけで一体化する「自己修復イオンゲル」。

Society 5.0やウェルビーイングな社会の実現へ
応用先の開拓であらゆる“豊かさ”を追求

ソフトマテリアルは、人間とロボットとの間のインタラクションをより自然で直感的なものに変える可能性を秘めている。本プロジェクトで開発を進める材料は、その一端を担い得るものだ。たとえば、触覚センサを搭載した柔軟な電子皮膚は、義手や義足に装着することで、それがまるで身体の一部であるかのような感覚を提供する。また、自己修復性や高い耐久性を持つ素材は、自動車の筐体の接着界面のような長期安定性が求められるインターフェイスの信頼性を向上させる。加えて、単なる機能性の追求に留まらず、生活の質的な豊かさにも重きをおき、医療やヘルスケア分野への応用も進めている。たとえば、皮膚の微妙な変化を検知する柔軟なセンサは、感情や生体情報を読み取ることができ、日々の健康管理に役立つ。

それら研究開発を進めるうえでは、複雑な構造に由来するソフトマテリアルの本質を見極めるため、人工知能を使った新しい分析技術の創出にも取り組んでいる。

NIMSと企業で共同開発した銅ベースの「厚膜導電性インク」を用いてフィルム基材に電子回路を印刷。 提供:三成剛生

Project leader

荏原 充宏
Ebara Mitsuhiro

生体と材料との“対話”をひもとく
相互作用の学理解明

細胞や組織、血液などが時間的・空間的に変動する、きわめて複雑な生体環境。そこに材料が触れると、細胞から組織、ひいては全身へと多階層的に現象が起こる。たとえば、分子やイオンの引き合いにより材料界面にタンパク質が吸着し、細胞の増殖を経て生体組織との一体化が進む、というように。NIMSは各階層において高度な生体制御を可能にする材料、すなわち、生体環境と材料との相互作用を能動的に活用して生体機能を制御する「バイオアダプティブ材料」の創製に注力する。本プロジェクトでは、それら相互作用の学理解明に向け、最先端の生体イメージング技術やデータ科学を活用し、分子、細胞、組織レベルでの複合的な解析を実施。物理的な力が細胞に及ぼす影響や、骨のリモデリングなど、生命の根幹をなす現象について論理的な理解を深めるとともに、それらと相互作用する材料が有するべきパラメータを明確化し、革新的なバイオ材料の設計へと展開している。

面積が一定で形状が異なるマイクロパターン材料表面で培養したヒト骨髄由来間葉系幹細胞の蛍光顕微鏡像(緑色 : アクチン細胞骨格、青色 : 細胞核)。 提供:陳 国平

生体現象を巧みにリードするために
革新的な材料創製と医工連携

学理に基づき設計した材料を狙いどおり生体と相互作用させるためには、高分子の多孔化や粒子化、表面修飾、金属材料との複合化といった材料作製技術を用いて、材料の機能や発現のタイミングをプログラムする必要がある。しかも、医療用の高分子材料における絶対条件は、生体に悪影響を及ぼさないこと。本プロジェクトでは、原料も作製手法も生体にとって安全なものとするべく、既存の材料作製技術の最適化や新規合成法の開拓を進めている。加えて、医療材料においてハードルとなるの、臨床に至るまでの厳重な承認プロセスだ。安全性・有効性試験を考慮した無駄のない戦略を立案し、いち早く革新材料を医療現場に投入するために、高分子・バイオ材料研究センターは医療機関や製薬会社との連携も強化。ウェルビーイングな社会の実現に向け、生体センサやウェアラブルデバイス、ドラッグデリバリーや細胞培養といった明確な出口を見据え、材料開発を推進中だ。

人工骨のチタン(黒色)表面に塗布することで、骨組織(茶色)との結合が3倍早くなるコーティング剤「水酸アパタイト/コラーゲン骨類似ナノ複合体(HAp/Col)」。 提供:菊池正紀