小型の端末に息を吹きかけるだけで、がんの有無が予測できる。そんな夢の検査法へのチャレンジが続いています。予測に用いるのは、呼気の“ニオイ”です。

呼気には多種多様なニオイ分子が含まれており、まさに情報の宝庫。呼気によってがんの有無を予測する「がん探知犬」の可能性は報告されていますが、日常生活のなかで簡便にがんを予測できる手法はまだ確立されていません。呼気の成分は複雑で、採取環境や個人差も結果に影響を及ぼすため、そこから手がかりを見つけ出すことはきわめて難易度が高いのです。これに対し、筑波大学附属病院呼吸器外科の佐藤幸夫教授らは、NIMSを中心に開発された嗅覚センサ「膜型表面応力センサ(MSS)」に着目。筑波大学、NIMS、そして茨城県立中央病院がタッグを組み、呼気によって肺がんの有無の予測を目指す共同研究を開始しました。

検証に用いたのは、肺がん患者66名から採取した、手術前と手術後の呼気です。佐藤教授らは、温度と湿度を管理した部屋で、共同研究チームで開発したプロトコルに従って慎重に呼気を採取。次にNIMSチームでは、呼気に対するMSSの応答シグナルを解析し、機械学習モデルを構築しました。その結果、肺がんの有無を80%以上の精度で予測可能であることを実証しました(図)。ただし、がん由来のニオイ分子の特定など、検証すべき事柄が残されていることもまた事実。誰もが手軽にがん検査を行うことができる未来の実現へ。共同研究チームは密接な連携のもと、さらなる改良を進めています。

図  呼気に含まれる成分に対し、それぞれ異なる応答を示すMSS 素子を 12 チャンネル用意。
全チャンネルのさまざまな組み合わせ(4,083 通り)について機械学習モデルを構築し、検証を行った。その結果、最高で正解率(80.9%)、感度(83.0%)、特異度(80.7%)、陽性適合率(80.6%)、陰性適合率(81.2%)で肺がんの有無を予測可能であることが実証された。

Profile

Genki Yoshikawa

高分子・バイオ材料研究センター
嗅覚センサグループ グループリーダー

〈関連プレスリリース〉
嗅覚センサと機械学習で、呼気から肺がんの有無を予測