Research Highlights 01

酸化ガリウムは 次世代パワー半導体の雄となるか

産業機器や家電製品において電力制御の役割を担うパワー半導体。炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を超えるポテンシャルを持つ材料として、酸化ガリウム(Ga2O3)に寄せられる期待は大きい。β型のGa2O3の実用化を目指しタッグを組む、大島祐一と大島孝仁に話を聞いた。


注目のβ型Ga2O3

次世代パワー半導体材料の研究開発が熾烈化する中、SiCやGaNより大きなバンドギャップを持ち、さらなる高耐圧化が可能な材料として期待の高まる「酸化ガリウム(Ga2O3)」。Ga2O3は結晶構造の違いにより、主にα型とβ型に分かれる。

 「α型は、β型よりもバンドギャップが大きく、パワー半導体としてのポテンシャルはとても高いのですが、結晶成長に用いる基板ウエハの作製が難しく、実用化には高い壁があります。一方でβ型は、α型と比べればバンドギャップは小さいものの、基板ウエハが用意しやすく、結晶の安定性からみても有利です。β型の方が、より実用化に近いと言えるでしょう」

そう語るのは、高品質な結晶成長技術の開発に挑む大島祐一だ。α型の高品質化の突破口を模索する一方で、β型の実用化に向け邁進している。

「β型Ga2O3の場合、『エピタキシャル成長』と呼ばれる技術によってβ型の基板上に、同じくβ型の薄膜を精緻に結晶成長させることができます。しかも、基板に用いるβ型Ga2O3は、すでに広く普及しているシリコン基板やガリウムヒ素基板と同様、大型の高品質単結晶を融液から製造可能です。特に最近は、日本でβ型Ga2O3の基板を製造販売する企業が現れ、世界各国の研究開発者が同社から基板を入手しています。研究開発に参入する障壁が下がり、競争が激化しているのです」

品質とコストの両立へ

結晶の高品質化と同時に、量産化において重要なのが、いかに結晶膜の生産性を高めるか。パワーデバイスに求められる膜厚は約100マイクロメートル(μm)にもなり得る。たとえ高品質な結晶ができても、成長速度が遅ければ製造コストに大きく影響してしまう。

その中で、大島らは「ハライド気相成長法(HVPE法)」と呼ばれる結晶成長技術の確立を目指している(図1)。HVPE法は、エピタキシャル成長技術の一種だが、他のエピタキシャル成長技術に比べて結晶の成長速度は100~1000倍も速い。

図1 ハライド気相成長法(HVPE法)の模式図
GaとHClとの反応でGaClが生成し、これとO2ガスが基板上で反応するとGa2O3が得られる。「このとき、結晶の成長速度を上げようとやみくもに原料ガスを増やすと、原料ガス同士が空中で反応し粒子化してしまいます。その抑制にHClガスは効果的ですが、HClガスを増やしすぎると、今度は基板上での結晶成長を阻害してしまうことも。結晶の高品質化には細やかな調整を要します」(大島祐一)

「成長速度に優れるHVPE法は、結晶の品質向上と製造コストの低減の両面において、有望な技術と言えます。ただし、その優位性を十分に活かすには、まず基板にどの結晶方位を使うかというところから、見極めが重要です。β型Ga2O3は、基板の結晶方位によって結晶の成長速度や品質が大きく変わるのです。前述のβ型基板を製造販売する企業では、主に(010)面と(001)面をラインナップしていますが、それらが必ずしもHVPE法による結晶成長に最適だとは限りません。他にも多くの結晶方位がある中で、どれが最も高品質かつスピーディに結晶成長できるかについては研究の余地があります。現在は、HVPE法による成膜条件と基板の結晶方位との最適な組み合わせを見つけ出すべく、さまざまに検証を重ねているところです」と大島(祐)。

他にも、結晶の成長速度を上げるには原料ガスの供給量を増やす方法があるが、そのさじ加減も重要だという。大島(祐)は、ガス量の繊細な調整や、HVPE装置の構造に工夫を凝らすことで、HVPE法の確立に注力している。

結晶のポテンシャルを活かす
2通りの微細加工技術

一方で、β型Ga2O3の素子化にあたっては、もう一つ重要なステップがある。その技術開発を進めているのが大島孝仁だ。

「Ga2O3はその性質上、半導体素子の基本構成であるpn接合のうち、p型半導体の作製が困難です。n型半導体だけで素子をつくると、電圧を上げると漏れ電流が発生し、耐圧性が低下してしまいます。それを回避するため私が進めているのが、微細加工技術の開発です」

半導体素子において、漏れ電流の発生を抑える手段として、微細構造を利用する方法がある。フィン(隆起した部分)やトレンチ(溝の部分)と呼ばれる立体構造によって電子の通り道を制限し、漏れ電流を抑制するのだ。通常、こうした半導体の微細加工には、プラズマが使われる。しかし、プラズマを使うと結晶にダメージが発生しやすく、せっかく高品質な結晶を用意しても、そのポテンシャルを活かすことができない。

そこで、大島(孝)が確立を目指しているのが、プラズマを使わない2つの微細加工技術、「選択ガスエッチング」と「選択成長」だ。

選択ガスエッチングとは、結晶表面にマスクを施し、マスクの開口(窓)の部分をHClガスで選択的にエッチングしていく手法のこと。一方、選択成長とは、結晶成長に先立って、あらかじめ基板にマスクを施した状態で原料ガスを流し込み、窓の部分だけ選択的に結晶成長させる手法だ。結晶成長と加工が同時に達成できるが、きれいなフィンとトレンチを形成するにはコツがいる。

「私はいずれの加工も、HVPE装置を使って行っています。HVPE装置には、もともとHClガスを流せる機構が備わっているので、選択成長だけでなく、選択ガスエッチングも実施可能なのです」と大島(孝)。

実際にHVPE装置を使い、β型Ga2O3の(010)面に対して両手法を実施してみた大島(孝)は「いずれにおいても、プラズマダメージのない平坦な加工面をもつフィンとトレンチが形成されていることが確認できました(図2)。今後、電流の制御に最適な構造の検討を進めると同時に、両手法の確立を目指します」と意欲を語る。

結晶の高品質化と微細加工技術、どちらが欠けても成し得ないβ型Ga2O3パワー半導体の実用化。二人の大島は両輪となって研究開発を加速していく。

図2  β型Ga2O3 の(010)面に加工を施したときの上方から見た基板(上)とその断面(下)。いずれも加工側面は、(100)面という最も化学的に安定な面となり、高い平坦性が得られた。
大島祐一(左)は企業在籍時、HVPE法を駆使してGaN単結晶基板を量産化へと導いた経験を持つ。「結晶成長から素子化に向けた微細加工まで、HVPE装置内ですべて高水準で行うために、加工に関する知見が豊富な大島(孝)と議論しつつ、装置やレシピの改良を進めています」

Profile

Yuichi Oshima

電子・光機能材料研究センター
超ワイドギャップ半導体グループ
主幹研究員

Takahito Oshima

電子・光機能材料研究センター
超ワイドギャップ半導体グループ
主任研究員