Research Highlights 03

多結晶でありながら 透明なセラミックスを

私たちの安心・安全を守る赤外線センサ。その窓材に適した、より安価で高機能な材料を求めて、森田孝治は透明セラミックスの作製手法を探究し続けている。


作製プロセスにより様変わりするセラミックス

透明性も質感もまるで異なる二枚の丸い板(上写真)。実はこれらは、どちらも同じ材料でできている。「スピネル(MgAl2O4)」と呼ばれる材料で、セラミックスの一種だ。

「同じ材料であっても、『焼結』と呼ばれる粉末を焼き固めるプロセスの温度や時間、温度の上昇速度などの条件を少し変えるだけで、セラミックスの透明性や、強度、耐熱性といった機械特性は大きく変化します。そこが研究の面白いところです」

そう語るのは、多結晶光学材料グループの森田孝治だ。セラミックスの光の透過性と機械的特性の向上を追求している。

「透明セラミックスの用途の1つに赤外線センサの窓材があります。窓材はセンサを保護する部材であるとともに、センサが必要とする光を通す特性が求められます。センサの中には、可視光から赤外線までの波長域を一度に検出できるものがあって、たとえば私たちが肉眼で見ている可視イメージと赤外線の熱情報から構築した画像を重ね合わせて表示することで、どこの温度が高いのか一目瞭然にする、といった利用が可能です。つまり、窓材にはそれだけ幅広い波長域の透過性が求められるのです。窓材には現在、シリコンやゲルマニウム製のレンズが使われていますが、可視光を透過しない点が課題です。一方、通常の可視カメラで使用されているレンズは赤外線を透過しません。可視から赤外線までをよく透過する材料としてはダイヤモンドがありますが、高額で汎用性に欠けます。一方、薄膜のガラスやプラスチックフィルムは安価で、可視光と一部の赤外線を透過するものの、強度が低い、熱に弱いという難点があります。そうした中、もしもスピネルのように安価な原料で、可視光から赤外線の透過性と機械的特性を兼ね備えた材料ができれば、日常にあふれるセンサはもちろん、航空機向けの赤外線センサなど、高い信頼性が求められる場面でも普及拡大が進むでしょう」
(森田)

その点、森田らが作製した透明セラミックス(写真左)はガラスのように透き通り、近赤外域で75%程度の透過率を実現。強度は一般的なガラスの5倍程度、既存のスピネルの2倍程度を実現し、700~800℃の環境下でも使用できる。森田らは、赤外線センサの窓材としての応用を目標に、さらなる特性向上を目指し研究を進めている。

NIMSの独自技術で透明性を向上

森田らの作製した透明なセラミックス、特筆すべきは、これが「粉末からつくった多結晶」であることだ。多結晶とは、小さな結晶粒がいくつも集まってできた固体のこと。普通ならば、結晶粒の境目や境目に残ったわずかな隙間で光が散乱するため、透明性を持たない。一般的な陶器が光を透過しないのはそのためだ。

この光の散乱を抑えるため、森田らは結晶粒を光の波長よりも小さいナノ粒子にした。焼結の仕方を工夫することで、結晶粒が大きくなることを抑えながら、結晶粒子同士の隙間を完全になくすことに成功。その結果、光の散乱が抑えられ、透明性が向上した。結晶粒を小さくしたことにより強度も大きく向上した。

「実はこの方法以外にも、透明セラミックスは、結晶の方向を3軸すべてそろえた『単結晶』にすることでも得られます。実際、すでに製造販売されており、X線やガンマ線を検出するシンチレーターや半導体レーザーに搭載されています。ただし、単結晶をつくるには、るつぼと呼ばれる容器の中で、2000℃以上の高温で溶かした原料をゆっくりと結晶成長させていくため、生産コストがかさむことが課題です」(森田)

その点、多結晶セラミックスは、粉末の原料を混ぜ合わせて焼き固めるだけ。単結晶に比べて多少透明性が劣っても、生産性が高い上、焼型さえつくれば複雑な形状でも自由自在につくることができる。また、るつぼで単結晶をつくる方法と比べて、作製に要する焼結時間が圧倒的に短い点も大きなメリットだ。

「多結晶セラミックスの焼結では、温度が数十℃異なるだけで、結晶粒と結晶粒の間に隙間が残ってしまったり、結晶粒が大きく成長してしまったりして、透明性は低下します。『なぜそうなるのか』を理解した上で、どのような条件で焼結すれば欲しい特性を引き出すことができるかが、研究における重要なテーマとなっています」(森田)

センター内の密な連携でセラミックスは進化する

森田らは、複数種類の材料を組み合わせた多結晶セラミックスの作製にも取り組んでいる。

「一例には、スピネル粉末の上下を、セラミックスの中でも一般的なアルミナ(Al2O3)で挟んだ、積層構造の多結晶セラミックスがあります(図)。スピネルは透明性が出やすい一方で、アルミナに比べて機械的特性が低いという弱点があります。逆に、アルミナは機械的特性が高い一方で、透明性が出にくい。そこで、お互いの弱点を補い合うことで、単一の材料より優れた多結晶セラミックスを実現しようと考えたのです」(森田)

図 アルミナ/スピネル積層透明体

このとき森田らが工夫したのが、あらかじめアルミナの結晶粒の方位をそろえてから焼結することだ。通常、多結晶を構成する結晶粒はバラバラの方向を向いており、結晶粒の境目で起こる光の散乱が透明性を下げる要因の1つになっている。特にアルミナは、結晶の構造が等方的ではないため、結晶粒の境目での光の散乱が透明性を大きく損なう原因となる。

結晶粒の方位をそろえる技術は、「磁場配向」という、NIMSが先進的に取り組んでいる技術だ。外部から強磁場をかけながら成形することで、結晶粒の方位が一方向にそろう。その成形体をスピネル粉末の上下に積層して焼結するだけで、透明な積層構造の多結晶セラミックスができ上がるという。この磁場配向は、同じ電子・光機能材料研究センターの高機能光学セラミックスグループと連携して実施している。

「原料となる粉体の粒のサイズや形も焼き上がりを左右する重要なポイントで、粉体の専門家と連携して最適なものをつくり上げています。ほかにも、次世代蛍光体グループのメンバーとは、高輝度のLED光源をつくる共同研究をしています。LEDの光源となる蛍光体を、熱伝導性の高い透明セラミックス中に分散させることで、輝度を高めるに伴い生じる熱を十分に逃がすことができるのではないかと考えています」(森田)

互いの技術とアイデアを持ち寄ることにより、進化を続けるセラミックスの作製プロセス。森田らは今後も密な連携を糧に、革新的なセラミックスの開発を目指す。

Profile

Koji Morita

電子・光機能材料研究センター
多結晶光学材料グループ
グループリーダー