Research Highlights 01

軽量化の切り札「CFRP」 リサイクルへの挑戦

軽量で強度が高く、耐熱性にも優れる「繊維強化プラスチック(FRP)」は、航空機の軽量化の要請が高まる中で存在感を増している。樹脂と炭素繊維から成るCFRPをはじめとした高分子系複合材料の専門家で、リサイクル性の付与という挑戦的な課題に取り組む内藤公喜にその戦略を聞いた。


広がる“墓場”…
繊維強化プラスチックの弱点

樹脂などの高分子材料と他の材料を組み合わせることで、金属を超える強度や軽量化を実現する、高分子系複合材料。代表的なものが「繊維強化プラスチック(FRP)」だ。本来、弾性率が低く壊れやすいプラスチックの中に繊維を分散させることで、強度を飛躍的に高めている。ガラス繊維を複合化したものをGFRP、炭素繊維を複合化したものをCFRPと呼ぶ。

GFRPは安価ながら、金属と同等の強度がある。CFRPは、軽量金属として知られるアルミニウムよりも軽い上、鉄の10倍もの強度を持つ。いずれも金属の大敵、さびが生じることもない。

というと一見、利点ばかりに思えるが、「大きな課題が残されている」と内藤は言う。

「風力発電のブレードにはGFRPが使われていますが、割れて使えなくなったものはリサイクルされず積み上げられ、ブレードの“墓場”が拡大しています。『自然環境にやさしい風力発電』のはずが、皮肉にも環境負荷をもたらしているのです。技術的には、プラスチックを高温で燃やせば溶けるので、ガラス繊維を取り出して再利用することは可能ですが、ガラス繊維は安価なので、リサイクルしても元が取れない。だから、そのまま捨ておかれているのです。CFRPの場合は、コストのほかにも高温で熱すると炭素繊維が破壊されてしまうという課題があり、廃材のほとんどが埋め立て処理されています。しかし、社会全体が環境負荷の低減へと動いている今、FRPに関しても、繊維や樹脂のリサイクルに向けた研究が盛んに行われている状況です」

内藤もまた、2023年4月にスタートしたNIMSの第5期中長期計画を節目に、環境にやさしくリサイクル性に優れるCFRPの開発に向けて動き出している。

経験に裏打ちされた新戦略

内藤は、低エネルギーで樹脂と炭素繊維との分離を目指している。その構想をこう語る。

「CFRPのプラスチック原料としては、天然由来の樹脂で、熱や電磁波といった何らかの刺激を受けて初めて分解するものや、微生物の働きにより分子レベルにまで分解するものを検討しています。また、炭素繊維に関しても天然由来のものを使うことで、環境への適合を目指します。特に、一定の熱を加えると分子の架橋が変化して軟らかくなる『ヒドリマー』という樹脂に注目していて、実際にヒドリマーの権威である伊藤耕三先生(東京大学 教授、NIMSフェロー)との研究がスタートしたところです。我々『高分子系複合材料グループ』は主に、繊維と樹脂との複合化および評価を担当します。当グループの強みは、複合材料開発の一連の工程、つまり材料設計から製造プロセスの開発、異種材料の接合、評価・解析に至るまでを網羅している点にあります。材料をスケールアップしていくには、すべての工程の知見が必要なのです」

内藤は2006年にNIMSに入所してから、一貫して材料の複合化をテーマに、研究に取り組んできた。第2期中長期計画(2006年4月~2011年3月)では、樹脂の中にナノ粒子を混ぜ込むことで、引張強度が高く衝撃に強いCFRPを実現した。第3期中長期計画(2011年4月~2016年3月)では、金属の中でも軽量なアルミニウム合金やチタン合金と、FRPとの複合化に取り組んだ。それらをつなげるための接着材料の開発と、各材料の形状の最適化により、金属の強度とFRPの軽さを活かした材料の開発に成功している。さらに、第4期中長期計画(2016年4月~2023年3月)では、「マルチマテリアル化」をテーマに、接着材料の開発を推進した。

FRPの作製にあたっては、信頼性の高い材料の作製が可能なオートクレーブ(写真)のほか、より製造コストを抑えられるオーブンやプレス機などを目的に応じて使い分けている。

オートクレーブで作製したCFRP。炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状のもの(プリプレグ)を積層する際、炭素繊維を任意の方向に重ね合わせることで、CFRPの力学強度や熱伝導性などが制御できる。写真左は、連続繊維を十字に編み込んだクロス材を用いたもの。十字方向に強く、45度方向にはよく伸びる。中央は、短い繊維をランダムに配置したもの。どの方向にも同じような性質を示す。右は、連続繊維を一方向に配置したもの。繊維方向には強いが、繊維と直交する方向には弱い。

力学的な評価としては、衝撃試験や疲労試験、クリープ試験、低温や高温などの環境試験を実施。ナノスケールの界面の評価に用いる、荷重負荷装置を組み込んだ走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)など、樹脂そのものや複合化した材料を評価する上で必要な装置のほとんどを自前で取り揃えている。さらには実験データをもとに、数値解析法の1つである有限要素法(FEM)を用いたFRPの強度予測なども行っている。

材料特性を大きく左右する
幅広いスケールの「界面」

あらゆる側面からFRPをはじめとした高分子系複合材料に迫ってきた内藤は、材料特性を高める上で重要なのは「界面」だと強調する。

「金属材料とFRPを接着した材料(図・左端)には、当然それぞれの界面がありますし、FRPの内部にも繊維束と樹脂との界面があります。さらに繊維束は単繊維が撚り集まったものなので、単繊維と樹脂との界面もある。それら界面の設計と制御が複合材料では重要です。たとえば、第3期で取り組んだ材料の場合(図・右端)、ナノ粒子と樹脂がくっつきすぎても剥がれやすくても良い特性は得られません。くっつきすぎると繊維が折れてしまうし、剥がれやすすぎると元の樹脂より強度が低下してしまうことすらあるのです。これまでに材料の作製と評価・解析を繰り返してきたことで、ようやくFRPの設計指針と評価・解析技術が確立しつつあります。それを活かして、先に述べた環境にやさしくリサイクル性に優れるCFRPの研究開発を軌道に乗せることが今の目標です」(内藤)

図 高分子系複合材料における界面の例

軽量性を活かして水素社会にも貢献

環境負荷の低減という観点では、水素エネルギーに対する社会の関心は高い。液体水素は、航空機のクリーンエネルギーとして期待されている。

航空機においては、燃料タンクの軽量化が重要課題で、FRPも構造材料の有力候補として研究開発が盛んに行われている。液体水素を燃料に用いる場合、FRPは金属と違って水素による脆化が起こりにくい材料であることに加え、金属と比べて断熱性に優れることも利点だ。水素の液化温度は約-253℃と極低温のため、燃料タンクには高い断熱性が求められるからだ。

とはいえ、極低温下でのFRPの材料特性は未解明な部分が多く、内藤は今後、その評価にも力を注いでいくという。

「NIMSでは水素液化技術の研究開発が進んでいますし、構造材料研究センターでは、極低温下での材料試験も実施しています。NIMS内でのコラボレーションを強化して、水素社会におけるFRPの設計や製造プロセスの指針を示していきたいと考えています」(内藤)

内藤は、時代の要請に向き合い続けている。

Profile

Kimiyoshi Naito

構造材料研究センター
高分子系複合材料グループ
グループリーダー