Research Highlights 02
金属3Dプリンタで 信頼性の高い造形材を
2023.11.16
金属の積層造形が、新たな材料作製法として期待されている。その利用に際しては、造形プロセスが従来手法と異なることで発生する造形材の結晶組織や特性の違いを理解した上で、用途に応じて造形条件を最適化する必要がある。草野正大はシミュレーションや機械学習を駆使し、造形プロセスの確立に取り組んでいる。
草野 正大Masahiro Kusano
構造材料研究センター 積層材料グループ 主任研究員
金属の積層造形ならではの課題
3Dプリンタによる金属の積層造形には、一体成型による部品削減や自由な形状設計などのメリットがある。現状、自動車のエンジン部品や航空機の部品などは、鍛造や鋳造で作製した大型金属から部品を切削したり、複数のパーツを溶接によってつなぎ合わせたりしている。この工程を積層造形に置き換えることができれば、航空機エンジンの主材料であるニッケル(Ni)基合金やチタン(Ti)合金のような難削材を使う場合でも、切削加工や組み立てが不要となり、歩留まり向上やコスト削減を期待できる。
金属の積層造形の一方式である「レーザ粉末床溶融結合法(Laser Powder Bed Fusion:L-PBF)」ではCADデータをもとに、TiやNiなどの金属粉末をレーザの熱で溶かし、立体形状をつくり出す。具体的には、粒径数十マイクロメートル(μm)の金属粉末をステージ上にごく薄く敷いてレーザを照射し、溶融・急冷凝固させるサイクルを、一層ごとに繰り返して積層していく(図1)。そこで課題となるのが、造形材の結晶組織であり、その組織によってもたらされる材料特性だ。

L-PBFによる金属の積層造形では、粒径数十μmの金属粉末をステージ上にごく薄く敷き、レーザを照射。レーザの熱によって溶解した金属が凝固するプロセスの繰り返しにより、CADでの設計どおりに金属を形作っていく。粉末は1層積層するごとに自動供給される。ビーム径が約100μm以下と小さいため、高精度な造形が可能。
「L-PBFと従来の鋳造・鍛造では造形プロセスがまったく異なるため、造形物の結晶組織も違ってきます。結晶組織は、強度や耐食性などの材料特性に直結します。ところが現状のL-PBFでは組織の制御法が確立されていないため、航空機部品のように品質の要求が極めてシビアな材料の造形にはまだ活用できていません。課題解決のためには造形プロセスのパラメータ、具体的にはレーザ出力とその走査速度、走査パスの間隔などによってもたらされる造形材の熱履歴(材料温度の時間変化)が、結晶組織の形成にどのように関わっているのかを解明する必要があります」(草野)
そこで草野が着手したのが、プロセス・結晶組織・材料特性の相関関係の解明だ。
シミュレーションと実験の併用による解析
「相関関係の解明法には、実験ベースで進める方法とシミュレーションを併用する方法があります。ただし、実験ベースで一連のプロセスを繰り返してデータを集め、その結果を元に造形プロセスを解明していくには多大な時間と労力が必要です。そこでコンピュータシミュレーションを積極的に活用して、効率化を図っています」(草野)
たとえば、積層造形中の結晶粒の成長過程について、草野は原料粉体の動きや溶融池*の流動、造形材における熱の移動など、さまざまな現象の数値解析を進め、それらを利用して結晶組織の成長シミュレーションプログラムを構築した。レーザの走査パターンに基づいて結晶組織が立ち上がっていく様子を、3Dアニメーションで確認できる(図2)。現時点では、実際につくった材料を、シミュレーションで追試するまでに留まるが、将来は、得たい結晶組織に応じてレーザの走査パターンを割り出せるまでに発展させる予定だ。

レーザの走査によって結晶組織が形成されていく様子が3Dアニメーションで確認できる。左図はNi基合金の例で、矢印の方向にレーザの照射が進むのに伴い成長した結晶粒の結晶方位がマッピングされている。右下図の、実際に電子線後方散乱回折(EBSD)装置で観察した結果と比較したところ、XYZ軸のうち、XZ平面では積層方向(Z軸方向)に向かって結晶粒が柱状に成長する様子が、XY平面では、レーザーの走査パターンを反映した規則的な結晶組織の出現が正確に再現されている。
「実験ベースのアプローチとしては、造形条件を変えて作製したTi合金の試料からデータを集め、引張特性の予測モデルを構築しています。具体的には、顕微観察画像から結晶組織の特徴量(粒径やアスペクト比など)を抽出するとともに、同じ試料に対して引張試験を実施。それらの結果を集約したデータセットに対して、機械学習の一種である多変量線形回帰を行っているのです。この予測モデルを用いることで、どのような造形条件や結晶組織が材料の引張特性に寄与するかが解明されてきています」(草野)
Ti合金の結晶組織と引張特性との相関関係は複雑で、歴史ある鍛造・鋳造の場合でも、その予測は難しい。これを精度よく予測できるようになれば、L-PBFの信頼性は格段に増すだろう。ただ、もう一点、信頼性に大きく影響するのが内部の欠陥である。内部に欠陥があると、たとえ思い通りの形状に加工できたとしても、破断するおそれがある。
「欠陥については『空隙』と『割れ』があり、それぞれ発生メカニズムが異なります。空隙は、レーザのエネルギー密度により制御可能であることが明らかになっていますが、割れの制御についてはまだ統一見解がありません。レーザの出力強度・走査速度・パスの間隔・造形材の保持温度が、Ni基合金部材に発生する割れの密度や長さなどに関与しているところまでは分かっています。またレーザ照射直後の凝固時、積層造形の進む過程で温度の上昇と下降を繰り返しながら徐々に冷却する時や、造形後の熱処理時などに割れが生じる可能性があり、それぞれ発生メカニズムが異なります。現在はレーザ照射条件と割れとの関係を調べるために、熱履歴や結晶組織の数値解析を進めているところです」(草野)
レーザの自動制御で革新的なプロセス開発へ
現段階では、結晶組織のシミュレーションや特性予測モデルが個々に存在している状態だが、草野は「もちろんこれで終わりではなく、最終的にはこれらをつなげ、欲しい特性を得るための結晶組織はどのようなもので、それを作るために適した造形条件は何かをシミュレーション上で探索したい」と意欲を語る。実現すれば、部品削減や自由な形状設計といった積層造形のメリットを有効活用できるだけでなく、L-PBFの特性を活かした新たな材料開発への道も広がってくる。
「その上で、造形プロセスにおいては『フィードバック制御』をかけられるようにしたいと思っています。たとえば、積層中の造形物の表面温度データをモニタリングし、シミュレーションによって導き出した目標温度との差分をリアルタイムに計算しながら、レーザの強度や走査速度などに制御をかけていく。実際に、どの造形条件にフィードバックすれば材料温度を目標値に制御しながら造形ができるか、シミュレーションにより明らかになっています」(草野)
現状ではL-PBFの装置自体が、こうしたフィードバック制御を想定した設計とはなっていないが、顕著な研究成果が上がれば装置が改良される可能性はある。L-PBFの精緻なコントロールと信頼性の高い材料の創出を目指し、草野は多角的な挑戦を続けていく。
*溶融池…原料粉末にレーザを照射したとき、熱によって溶解して液体になった領域
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