Research Highlights 06
物理の基本法則のみで 耐熱材料の微細組織を予測!
2023.11.16
航空機エンジンなどで長期使用される耐熱材料の特性を実験で評価するには、多くの時間とコストがかかる。
佐原亮二は、コンピュータシミュレーションの高精度化により、特性評価や新材料開発の高速化を支えている。
佐原 亮二Ryoji Sahara
構造材料研究センター 計算構造材料グループ グループリーダー
正確なシミュレーションを阻む計算誤差の壁
耐熱金属の強度・靭性などの特性には、ナノスケールの原子・電子の動きから、マクロスケールの微細組織までが密接に関係しており、マルチスケールでの複雑な制御を要する。そのため、いまやコンピュータシミュレーションによる予測が不可欠なものとなっている。
原子の結合状態や電子状態は、量子力学に基づく「第一原理計算」によって精密に予測できる。しかし、扱える空間や時間のスケールが非常に小さく、スーパーコンピュータをもってしても、マクロな微細組織を扱うことは困難だ。それに対し、マクロスケールを扱う「フェーズフィールド(PF)法」と呼ばれる手法がある。ただしPF法では、材料の使用温度域が高くなるほど計算の誤差が顕著になるという弱点がある。その補正には、一部パラメータに実験値を入力する、という方法がとられてきた。佐原はこう説明する。
「PF法は、実験後の検証には使えても、予測はできませんでした。そこで、第一原理計算とPF法を組み合わせることで、シミュレーションのみで予測可能にしたいと考えた私は、横浜国立大学と共同で、第一原理計算とPF法を連結させる手法の開発に着手しました」
耐熱材料の微細組織の予測が可能に
佐原らは、第一原理計算のミクロな結果をマクロな計算へと反映するため「ポテンシャル繰り込み理論(図1)」という独自の理論を開発。これを導入し、2019年に発表したのが「第一原理PF法」だ。世界で初めて、実験値のパラメータを一切使うことなく、物理の基本法則のみをベースに、耐熱材料の複雑な微細組織をシミュレーションできるようになった。微細組織がわかれば、そこから強度などの特性も推定できる。

この手法のポイントは、結晶の格子内(四角いセル内)において位置の自由度を持つ原子(→rA)が、隣接する原子(→rB1〜→rB4)から受けるポテンシャル(実線)を、格子の中心点(→RA)が受けるポテンシャル(点線)で代表させる点にある。この手法により、第一原理の結果をPF法のマクロな計算に精度を損なわず反映することができる。
「実際に第一原理PF法を用いて、ニッケルとアルミニウムから成る超耐熱合金や、通称『64チタン』と呼ばれるチタン合金について、微細組織のシミュレーションを実施しました。その結果、組成比を変えた各10パターン以上の計算値のどれもが、実験値とほぼ一致することが確認できました(図2)」(佐原)
今後、佐原らは第一原理PF法の適用範囲をさらに広げ、母相の結晶格子に他の元素が入り込んだ「侵入型固溶体」や、従来の合金に比べて高い強度・靭性・耐熱性をもつとされる「ハイエントロピー合金」などの予測にも適用させていく計画だ。

1027℃におけるNi82%-Al18%の合金について、「第一原理PF法」で予測した微細組織(左)と実験で得られた電子顕微鏡画像(右)。角ばった形状の析出物の出現が予測できている。
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