Research Highlights 01
磁気で熱を制御する 「磁性熱動体」を創製!
2024.02.09
磁気の起源である電子のスピンを使い、熱を自在に制御する「スピンカロリトロニクス」。
この分野を牽引してきた内田健一は、これまでの成果を礎に応用研究へと乗り出している。
内田 健一Ken-ichi Uchida
磁性・スピントロニクス材料研究センター スピンエネルギーグループ 上席グループリーダー
物理から、物質・材料へ
磁気・電気・熱のエネルギーは、相互に変換可能だ。とはいえ、熱は身近なエネルギーでありながら制御が難しい。そのような中、内田は電子のスピンを利用して熱を自在に制御する「スピンカロリトロニクス」分野を切り拓いてきた。2023年5月には、当分野の国際ワークショップをNIMSが拠点を置くつくば市で主催するなど、国際的な発展を牽引している。そして今、自身の研究の方向性を「物理から、物質・材料への転換」と形容する。
「これまで、スピンカロリトロニクス分野は基礎研究の域を出ず、我々のグループでも、物理現象の観測や解明までが研究の中心でした。基盤的な実験技術と理解が整った今、本腰を入れて応用を目指す時期が来たと捉え、物質・材料開発に邁進しています」(内田)
2022年10月には、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業ERATOにおいて「内田磁性熱動体プロジェクト」が始動。磁気によって熱を制御する機能性材料を総称して「磁性熱動体」と銘打ち、「熱変換」「熱制御」「熱移送」の3本柱*で推進中だ。
*「熱変換」では「熱電永久磁石」の開発に取り組むほか、「熱制御」では、磁化方向や磁場強度に応じて熱伝導率が劇的に変化する「磁性複合熱スイッチ材料」を、「熱移送」では、磁場を印加した際に吸熱・発熱を効率良く熱媒体に伝える「相界面制御磁気冷凍材料」の創製を進めている。
ミクロの物性をマクロへ。
「熱電永久磁石」を実現
「熱変換」では早速、応用への足がかりと言える成果が生まれている。2023年11月に発表した「熱電永久磁石」だ(特集トップページの写真)。永久磁石でありながら、電流と熱流をそれぞれ直交する方向に変換する“横型”熱電変換の機能を持つ(下図)。

既存のゼーベック素子は、電流と熱流が同じ方向に変換される“縦型”熱電効果によるもので、p型・n型半導体を集積して接続させた複雑な構造をとる。一方、横型熱電効果を用いれば素子構造が簡略化されるため、熱電変換素子の高効率化・低コスト化・耐久性向上につながると期待できる。
「従来、スピンに起因する熱電変換の性能指数は市販のゼーベック素子と比べると何桁も低く、実用面では見向きもされない技術でした。それが、現在我々が開発している材料の熱電性能指数は市販のゼーベック素子の数分の1にまで迫り、ようやく応用の可能性が見えてきたと言えます。基礎研究では、物理現象を観測するため、素性がよく分かっている均質な薄膜や単結晶物質が主な研究対象でした。ですが、熱電発電・冷却応用のためには出力が求められることからバルク材料への転換が必要であり、あえて不均質な微細構造や複合材料をつくることでエネルギー変換効率を向上させることも可能です。その上で、複合材料中で複数の物理現象を同時に発現させ、高い性能を発揮させていく。この熱電永久磁石は1つの実施例です」と内田。挑戦的な研究の先に、持続可能な社会が拓く。
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