Research Highlights 04
薄膜の磁性材料で挑む デジタルイノベーション
2024.02.09
ハードディスクドライブ(HDD)の大容量化や、ビッグデータ創出をもたらす新規センサの開発。
桜庭裕弥は薄膜材料を主軸に、それらの実現へとつながる材料研究を進めている。
桜庭 裕弥Yuya Sakuraba
磁性・スピントロニクス材料研究センター 磁気機能デバイスグループ グループリーダー
「ハーフメタル」で挑む、次世代リードヘッドの実現
桜庭が率いる「磁気機能デバイスグループ」は長年、HDDの読み書きヘッドに用いる「面直通電型巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子」の研究開発を推進してきた。CPP-GMR素子は、現行のリードヘッドに使われているトンネル磁気抵抗(TMR)素子と比べて、電気抵抗が低く、より微細化しても高速に応答できるといった特長から次世代リードヘッドとして有望視されているものの、感度の低さが課題になっている。
感度を高める戦略として、桜庭らは「ハーフメタル*」と呼ばれる磁気的に特異な性質を持った材料系を中心に、素子の構成材料の探索から、微細組織の構造制御まで取り組んでいる。
「素子は厚さわずか数ナノメートルの薄膜から成り、同じセンターの『ナノ組織解析グループ』と『磁性理論グループ』との強い連携のもと、原子スケールでの制御と理解に挑んでいます」(桜庭)
*ハーフメタル…一般的な強磁性体では上向きのスピンと下向きのスピンの分極の度合い(スピン分極率)が50%程度であるのに対し、スピン分極率 100%(スピンの向きがすべて同じ)を示す強磁性体。
世界初、フレキシブルな熱流センサ誕生
そうした薄膜材料の知見をもとに、現在、桜庭はCPP-GMR素子と並行して「熱流センサ」の研究開発を進めている。熱流は人体や機器などから絶えず発生し続けており「実は有用な情報源でもある」と桜庭は言う。
「例えば、センサを使って建物内のあらゆる場所の熱流をデジタル情報化できれば、いち早く空調の出力を制御したり、より効果的な方向に風向きを変えたりと、効率的なエネルギーマネジメントが実現するでしょう。ほかにも、熱流の発生によって機器の故障を検知するといった使い道もあります」とその有用性を語る。
熱流センサは、すでに市販されている。ただし、それらは「ゼーベック効果」を利用したもの。電流と同じ方向に熱流が変換されるため、原理的にセンサの構造が複雑になる。それゆえ、熱抵抗が高く、汎用的な利用は困難だ。
そこで桜庭が着目したのが、磁性材料が示す熱電現象の1つ「異常ネルンスト効果」だ。電流と熱流がそれぞれ直交する方向に変換されることから、磁性体の薄膜を使ったシンプルな構造が実現でき、熱抵抗も低い。
桜庭は試行錯誤の末、フィルムの上に磁性体の薄膜を素子化。2018年、異常ネルンスト効果の活用によって、フレキシブルな熱流センサが動作することを世界で初めて実証した。
「薄膜なのでフレキシブルな点や、ゼーベック素子より製造コストが安価な点は、IoT社会において大きな強みとなるでしょう。現在の感度は1ワット毎平方メートル(W/m2)の熱流密度に対して1マイクロボルト(μV)程度で、実用化に向けてはさらに感度を高めていく必要があります。今後も解析・理論を担うグループとの強い連携を活かし、社会実装を目指します」(桜庭)






