Research Highlights 05

スピンの基礎物性に迫り 新原理のコンピューティングを

磁性薄膜材料で生じる、さまざまな磁気的相互作用や稀有な物理現象。
葛西伸哉はそれらの活用に向けた基礎研究の推進と同時に、高効率な探索体制を築いている。


磁化の高効率な制御を求めて

スピントロニクス技術の代表的な応用例である「磁気抵抗メモリ(MRAM)」。その高性能化には、磁気の源である電子のスピンの振る舞いをより深く理解し、適切に制御することが不可欠だ。

MRAMの中で情報保持を担う「トンネル磁気抵抗(TMR)素子」は、ナノメートル(nm)オーダーの超薄膜を幾重にも積層したものだ。中でも、2枚の強磁性体で絶縁体を挟んだ構造が機能発現の要である。

「MRAMの目下の課題は、書き込みの低消費電力化と読み取りの高効率化です。我々『スピン物性グループ』は、さまざまな物理現象や磁気的相互作用を活用することで、高効率な磁化の制御手法の検討を行っています」(葛西)

磁化を制御するためには、電子の流れに付随して生じる電子スピンの流れ、いわゆる「スピン流」をいかに高効率に生成するか、また、生成されたスピン流の向きをどのように制御するかが重要な課題となる。

「私たちは、強磁性体とさまざまな材料からなる接合系において、より高効率な電流–スピン流変換と、それを用いた磁化制御の低消費電力化を追求しています。また最近では、強磁性体に変わる材料として『フェリ磁性体』『反強磁性体』のスピン制御についても検討を行っています」(葛西)

ニューラルネットワークの
新たな担い手「磁気スキルミオン」

一方、次世代エレクトロニクスデバイスの開拓には、基礎研究による新たな動作原理の確立が欠かせない。現在、葛西らが注目しているのが「磁気スキルミオン」だ。これは強磁性体に現れる磁区構造の1つで、ナノスケールでも安定という特徴から、新たな情報担体として脚光を浴びている(図)。

図 スキルミオンの模式図
外側は上向きスピン、内側は下向きスピンで、全体として放射状に並んだ、トポロジカルなスピン構造を持つ

磁気スキルミオンの生成・消滅は、デジタル情報の“0・1”の書き込みに対応する。葛西らは、この制御を電流や電圧で実現するとともに、より低消費電力で書き込みを実現するための新規材料の探索を進めている。

「磁気スキルミオンの生成・消滅現象は高い非線形性を有しており、ニューラルネットワークの一種『物理リザバーコンピューティング』における時系列情報処理の担い手としても有力視されています。我々はその原理実証に成功しており、今後はデバイスとしての機能実現と、その特性向上に向け邁進していきます」(葛西)

Profile

Shinya Kasai

磁性・スピントロニクス材料研究センター
スピン物性グループ
グループリーダー