Research Highlights 06
世界最高記録、その先へ―― TMR素子の品質を追求する
2024.02.09
次世代メモリ「不揮発性磁気抵抗メモリ(MRAM)」の中で情報保持を担う「トンネル磁気抵抗(TMR)素子」。介川裕章らは、その性能の指標となる値(TMR比)の世界最高記録を樹立。MRAMの大容量化や安定動作の実現に向け、TMR素子の品質を追求し続けている。
介川 裕章Hiroaki Sukegawa
スピントロニクスグループ グループリーダー
記録更新を支えた自動成膜装置と
独自設計の成膜プロセス
磁場による電気抵抗の変化を利用し、MRAMにおいてデジタルデータの“0・1”を記録している「TMR素子」。その電気抵抗の変化率、「トンネル磁気抵抗(TMR)比」が大きいほど、MRAMの高速化や省電力化、大容量化につながる。そのため、世界中の研究者がTMR比の向上を目指してしのぎを削っている。2008年には東北大学がTMR比604%を叩き出した。ところがその後、記録の更新は途絶えていた。
2023年4月、15年ぶりに世界最高記録を更新したのが介川らのグループだ。TMR比631%を示すTMR素子の開発という快挙を成し遂げた。
「TMR素子の性能のほとんどが、異種材料同士の『界面』の精度で決まります。今回、我々は磁性層にコバルト・鉄合金を、絶縁層に酸化マグネシウム(MgO)を用い、それらすべてを単結晶にしました。また、NIMS独自開発の自動成膜装置(右写真)を用いて、磁性層は『スパッタリング法』、絶縁層は『電子蒸着法』で成膜しました。それぞれの材料に適した成膜手法を選択することで、高品位で平坦な界面を実現させたわけです」(介川)
加えて、介川らは絶縁層MgOの下に、わずか0.6ナノメートルの金属マグネシウムの層を挿入。MgO界面の余分な酸素を吸収させることで、構造を安定化させた。さらに、MgOの上側の界面には、磁性層の積層直前にごくわずかな量の酸素ガスを吹き付けるなど、独自の工夫を幾重にも凝らしたという。
現象を突き詰め、革新的なデバイスを
TMR比631%という記録は、単結晶かつさまざまな成膜手法を駆使して界面の構造を極めるという、いわば理想的な条件を整えたことで到達した最高値だ。実用化に向けては、より製造コストの低い多結晶かつ、産業界で普及しているスパッタ法でも再現できることが望まれ、手法の置き換えを模索している最中だ。
「加えて今回、TMR比の値をプロットしたところ、約500~600%の間で値が大きくゆらぐ現象が現れました。この現象自体は以前から知られていましたが、界面の欠陥が低減すれば消えると思われていました。ところが高品質化の結果、むしろゆらぎは増幅した――。TMR比の追求だけでなく、そうした未解明の現象を突き詰めることで、革新的なデバイスを実現していきたいですね」(介川)

「例えば、微量の酸素ガスを送り込むために供給シャッターをごくわずかな時間だけ解放する、人手では難しいそうした作業を正確かつ再現性高く実施することがこの装置では可能です」(介川)





