Research Highlights 07
数値計算で寄与! 磁性材料開発の指針を示す
2024.02.09
数値計算は、開発した材料特性の理論的な裏付けや、新材料開発の指針をもたらす極めて重要なものだ。
三浦が率いる磁性理論グループは、磁性・スピントロニクス材料開発の“頭脳”として、材料の性能向上や新材料探索を支えている。
三浦 良雄 Yoshio Miura
磁性・スピントロニクス材料研究センター 磁性理論グループ グループリーダー
磁気センサの
性能低下の要因を解明
量子力学に基づいて、物質の構造や電気・磁気的性質、安定性などを予測する「第一原理計算」。コンピュータ上で、あらゆる物性を実験とは独立して厳密に予測できる。
「いま扱っている材料の1つが、磁気メモリや磁気センサ用の『磁気抵抗素子』です。この素子は温度に非常に敏感で、常温では素子の性能を左右する『磁気抵抗比』の値が急激に下がってしまいます。その要因を特定してほしい、という材料研究者からの依頼を受けて、第一原理計算を行いました」(三浦)
磁気抵抗素子は複雑な多層膜構造を持つが、その機能発現の要となるのは、2層の強磁性体の間に非磁性体を挟み込んだ3層構造だ。三浦はその界面に着目し、計算を実施することにした。本来、第一原理計算では、絶対零度(−273.15℃)での物性しか予測できない。これを、材料が実際に使われる常温、いわゆる有限温度のもとでの物性予測を可能にするため、三浦は第一原理計算に他の理論を組み合わせた。
「有限温度領域では、物性には磁化の熱ゆらぎが大きく影響しますので、計算においても、熱統計力学に基づく熱ゆらぎの効果を電流の計算に加えることで、補正を行いました。計算の結果、実際に性能低下の原因が界面にあること、そして界面の原子構造を変えれば、温度上昇による性能低下を抑制できることを突き止めました(図)。これを材料研究者に伝えたことで、現在、材料の改良が進んでいます。もちろん、計算結果通りに材料をつくることは決して簡単ではありませんが、我々としては、まず指針を示すことが重要だと考えています」(三浦)

計算の結果、Co2MnSi合金 の界面がCo原子で終端されている場合(グラフ左端・赤)、熱ゆらぎが顕著に表れることが明らかになった。そこで、界面に鉄(Fe)の層を挟んだ場合を計算したところ(グラフ右端・赤)、常温でもスピンが堅い状態が保たれ、熱ゆらぎが生じにくくなることを見出した。
データ駆動による
磁性材料開発にも貢献
加えて昨今、データ駆動型の材料開発は研究現場において当たり前のものとなり、三浦のグループのメンバーもさまざまなプロジェクトに参画している。
「データ駆動型手法の開発を専門とするNIMS研究者との共同研究では、我々が第一原理計算で求めた結果を機械学習にかけてもらい、計算を高速化するためのモデル構築を進めています」(三浦)
ほかにも、既存の磁気抵抗素子の強磁性体に含まれる希少元素、イリジウム(Ir)の価格急騰を背景に、Irを使わず性能の維持・向上が図れる磁性材料の提案を目指す。時代が求める磁性材料の開発に向け、その取り組みも進化を続けている。
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