Research Highlights 08
最先端の解析装置を駆使し、 金属材料の高性能化を目指す
2024.02.09
電子顕微鏡や3次元アトムプローブなど、ナノ組織の詳細な観察が可能な高度解析装置。
ナノ組織解析グループでは、これらを駆使したマルチスケール解析により金属材料の研究開発を支えている。
グループリーダーの佐々木泰祐に話を聞いた。
佐々木 泰祐Taisuke Sasaki
磁性・スピントロニクス材料研究センター ナノ組織解析グループ グループリーダー
マルチスケール解析で
金属材料を多面的に観る
材料の特性は、それを構成する元素だけでなく、作製の過程で形成される微細組織とも密接に関係している。しかも特性に影響を及ぼす組織は、ナノスケールからミクロスケールまで広範にわたる。だからこそ、微細組織をマルチスケールで多面的に解析する必要がある。佐々木が率いる「ナノ組織解析グループ」では、目的に応じて複数の装置を併用することで、磁性材料をはじめとする各種金属材料を対象に、微細組織と特性との関係解明を進めている。
主に、佐々木らが解析に用いている装置は、透過型電子顕微鏡(TEM)、集束イオンビーム(FIB)と走査型電子顕微鏡(SEM)の複合装置、そして3次元アトムプローブ(3DAP)だ。
TEMは、試料を透過した電子線を捉えることにより材料の構造を原子レベルの分解能で解析できる。SEMは、TEMに比べると分解能では劣るものの、材料のミクロ~ナノスケールの微細組織を詳細に解析可能だ。さらにFIBによる微細加工を用いれば、試料表面の加工とSEM観察を繰り返すことで3次元画像が得られるだけでなく、TEM観察用の試料を任意の場所から削り出すこともできる。他方、3DAPは、材料の3次元の元素分布を原子レベルの分解能で解析し“元素マップ”を描くことができる最先端のナノ組織解析装置だ。
「3DAPはナノ領域における元素分布などの解析を得意とする一方で、結晶構造やミクロレベルの元素分布などは解析できません。その場合にはTEMやSEMを併用するというように、それぞれの装置で弱点を補完し合いながら解析を行っています」(佐々木)
HDDの次世代リードヘッド研究に貢献
ナノ組織解析グループは、磁性・スピントロニクス材料研究センターで研究開発が進むあらゆる材料の解析を担当し、材料の設計指針を提示している。実際に「ナノ組織解析グループの解析データあってこそ」と、その貢献を評価する声は大きい。
一例に、ハードディスクドライブ(HDD)のリードヘッド用途等で研究開発が進む「面直通電型巨大磁気抵抗(CPP-GMR)素子」がある。強磁性層と非磁性金属層から成る3層構造が、機能発現の要だ。
「あるとき『磁気機能デバイスグループ』の桜庭裕弥(→Research Highlights 04)から、自らが作製したCPP-GMR素子について『磁気抵抗比をさらに向上させるためのヒントを得たい』と相談を受けました。そこで、走査透過電子顕微鏡法(STEM)やエネルギー分散型X線分光法(EDS)を組み合わせ、強磁性層と非磁性金属との界面構造やその元素分布を解き明かしていきました(図1)」(佐々木)

まずは、走査型透過電子顕微鏡(STEM)で試料表面の構造を広範囲に観察。強磁性層と非磁性金属層の厚さや界面の平坦性を評価した後、STEM、EDSにより元素分布を詳細に分析した。その結果、強磁性層にホイスラー合金系ハーフメタルのCo2FeGa0.5Ge0.5 (CFGG)を、非磁性金属層にAgを用いた場合、ハーフメタルの終端がCo層となるとともに、Ag層との間にGaとAgが交互に並んだ層が存在することが明らかに。磁気抵抗比の向上の指針が得られた。
さらに、この解析結果を「理論磁性グループ」の三浦良雄と共有し、第一原理計算の結果と比較。どのような微細組織をつくれば磁気抵抗比が向上するか、考察を深めていった。これらの結果が礎となり、磁気機能デバイスグループでは、低温下では世界最高性能を示すCPP-GMR素子の開発を実現。さらなる記録更新に向け、共に歩みを続けている。
自ら材料開発も。
高性能磁石に含まれる希少元素を削減
佐々木らは、微細構造の解析を通して材料の研究開発を下支えする役割を担うだけでなく、解析結果に基づき自らも材料開発を行っている。ここ10年ほど取り組んでいるのが「ネオジム磁石」だ。ネオジム磁石とは、ネオジム(Nd)・鉄(Fe)・ホウ素(B)を主原料とした最強の磁石だ。電気自動車(EV)の駆動モーターに使われていることから、近年需要が急増している。
ネオジム磁石は元来、高温になると保磁力が減少してしまう性質を持つ。一方、EVの駆動モーターの動作環境は150℃以上にも達するため、重希土類金属元素のジスプロシウム(Dy)などを添加することで耐熱性を高めたネオジム磁石が使われている。
しかし、Dyは希少元素であり、その使用量削減は喫緊の課題である。そこで、NIMSでは長年、磁石の微細組織を原子スケールで詳細に解析し、保磁力との関係について解明を進めてきた。実際に、磁石の設計指針となる数々の重要な知見が得られている。
「かつては、ネオジム磁石の結晶と結晶の境界(結晶粒界)にはNdが濃縮していて、これが耐熱性を発現させるカギとなっていると考えられていました。ところが、2012年にホセイン・セペリ-アミン(→Research Highlights 02)らが、結晶粒界には相当量のFeが存在することを見出し、粒界のFeを減らせばさらなる耐熱性向上の可能性があることを示しました。そこで私は市販の磁石と、元素(Ga)の添加によって耐熱性を高めた磁石について、微細組織や結晶粒界の磁気特性をSEMやTEMで詳しく解析しました。すると、確かに耐熱性を高めた磁石の方が、結晶粒界に存在するFeの量が少ないことが確認できました」(佐々木)
次いで佐々木らは、ネオジム磁石の改良に取り組んだ。組織制御法として2010年にセペリ-アミンらが確立した「共晶合金拡散法」を取り入れ、Dyの添加量を減らす代わりにプラセオジウム(Pr)や銅(Cu)といった他の元素を結晶粒界に拡散させた。
「その結果、Dyを合金化したネオジム磁石と比べて、わずか10分の1程度のDy添加量で、優れた耐熱性を発揮させることに成功しました。SEMやTEM、3DAPによる解析結果から、確かに結晶粒界に存在するFeを低減できていること、そして磁石の結晶粒の表面のみに局所的にDyを配置したことが、成功の要因であることが明らかになりました(図2)」(佐々木)

ほかにもナノ組織解析グループでは、3DAPによる水素のナノスケール3次元イメージングのほか、解析用の試料作製の自動化にも取り組むなど、解析技術の高度化にも取り組んでいる。解析目的に応じて的確な領域から試料を削り出すいわば“匠の技”を、装置が全自動で遂行できるよう制御プログラムを開発中だ。
「NIMSの強みは、材料研究者が『この材料の組織構造が見たい』と思ったら、我々がすぐにそれを解析できる体制にあります。また、我々自身も可能な限り材料の開発に取り組むことで材料の開発スピ―トを加速できるのです」と語る佐々木。これからも同センターの材料研究を支えるとともに、自らもたゆまず進化を遂げていく。
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