Research Highlights 01

“究極の安全性”を求めて。 「酸化物型全固体電池」への挑戦

すべての材料が固体で構成された「全固体電池」は、電気自動車(EV)の航続距離を伸ばし、安全性を高めるカギとして早期実用化が待ち望まれている。大西剛は、その出力向上を阻む要因解明に熟練の薄膜成長技術を駆使。さらには、高容量化に有利な、バルク(塊)型の全固体電池開発にも乗り出している。


安全で長寿命、期待高まる全固体電池

低炭素社会の実現に向け、EVの普及が加速している。車載用の蓄電池(以下、二次電池)には、軽量・大容量・長寿命、そして高い安全性が求められる。

現在、市販されている中で最もエネルギー密度の高い二次電池は「リチウムイオン電池」だが、1回の充電によるEVの航続距離は500km以下と短い。また、リチウムイオン電池は電解質に可燃性の液体が使われているため、安全面で十分な配慮を要する。さらには、充放電の繰り返しによる容量低下も大きな課題だ。そうした中、これらの課題を解決する二次電池として期待を集めているのが「全固体電池」だ。
全固体電池とは、リチウムイオン電池の基本構成はそのままに、電解質を液体から固体に置き換えたものだ(下図)。

*エネルギー密度…電池から取り出せるエネルギー量の単位体積または単位質量あたりの値。

全固体電池の模式図

いずれの材料も不燃性で、理論上、市販のリチウムイオン電池よりもエネルギー密度が大きい。また充放電の際、電池反応に直接寄与しない物質まで行き来する液体の電解質とは異なり、固体電解質中を移動するのはリチウムイオンだけ。性能の低下を招く副反応が抑えられ、長寿命化が可能になる。

しかし、全固体電池はすでに市販されているもののその用途は限定的で、まだEVへの搭載には至っていない。固体であるがゆえに電極、とりわけ正極材料と固体電解質との界面でリチウムイオンの移動が妨げられ、性能が十分に発揮できていないのだ。この課題に、独自の薄膜成長技術を駆使して取り組むのが大西剛だ。

リチウムイオンの移動を妨げる要因を「薄膜」で洗い出す

全固体電池は、固体電解質の組成によって「硫化物型」と「酸化物型」に大別される。現在、実用化への道を一歩先んじているのは硫化物型だが、大気中の水分と反応して有毒な硫化水素が発生する懸念があり、回避方法の模索が続いている。その点、酸化物は大気中で安定であり、“究極の安全性”を備える。

しかし、酸化物固体電解質の大半が硬い材料のため、正極材料との密着性を高めることが難しく、その界面においてリチウムイオン伝導性の低下がより顕著に現れる。

「特に、リチウムイオン伝導性は材料の結晶方位によって大きく変わると言われていました。そこで私は、正極・負極・電解質のすべてを薄膜で作製し、それらを積層した『薄膜型全固体電池』の充放電特性を評価することによって、リチウムイオンの移動抵抗を左右している要因を詳細に洗い出すことにしました。薄膜の場合、私がこれまで培ってきた技術を駆使して元素組成や結晶方位を精密に制御することが可能です。そこで、実際に正極材料の結晶方位を変えて電池サンプルをつくり分け、どの結晶方位がどれくらいイオン伝導性に優れるのかを確かめることにしたのです」(大西)

正極材料の「コバルト酸リチウム(LiCoO2)」の成膜に用いたのは、「パルスレーザー堆積(PLD)法」と呼ばれる技術だ。これは、紫外光のパルスレーザーを固体原料の表面に照射、蒸発した原料を基板に堆積させることで薄膜を作製する手法だ。大西は学生時代からPLD法を使い続けており、もはやライフワークのように感じているという。

そして、酸化物固体電解質のリン酸リチウム(Li3PO4)は「高周波スパッタ法」によって、負極材料の金属リチウムは「真空蒸着法」によって、それぞれ高品質な薄膜を積層。その充放電特性を次々と評価していった。

「その結果、イオン伝導性に優れた正極薄膜の結晶方位が明らかになり、薄膜型全固体電池の出力向上に成功しました(図1)。また、欠陥の有無をはじめとした結晶の品質が性能に及ぼす影響についても考察が深まりました」(大西) 

図1 正極材料にLiCoO2薄膜、酸化物固体電解質にLi3PO4薄膜、負極材料に金属Li薄膜を用いた「薄膜型全固体電池」の充放電特性を示した。2つのグラフでは、それぞれLiCoO2薄膜の結晶方位が異なる(左は(001)配向、右は(104)配向)。1Cとは、電池を1時間で完全充電(または放電)させるために必要な電流の大きさ。放電の電流を大きくすると(001)配向では取り出せる容量がどんどん小さくなるが、(104)配向ではあまり減らず、1000Cでは蓄えたほとんどの容量を4秒足らずで放電できるほど高出力。

こうした電極と電解質との界面に関する知見は、バルク材料を用いてより高容量な全固体電池を作製する上でも重要な指針となる。例えば、温度や時間などの製膜条件により界面のイオン伝導性は変わってくるが、その知見は、バルク材料の焼成プロセスを設計する上でも大きなヒントとなるのだ。

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