Research Highlights 02
高速移動するリチウムイオン、 全固体電池内での動きを“見る”
2024.03.07
「全固体電池」最大の課題、リチウムイオンの伝導性向上を達成するため、観察の側面からも、イオン移動を妨げる要因解明の努力が続けられている。そうした中、世界で初めて固体電解質内におけるリチウムイオンの動きの可視化を成功させた桑田直明に話を聞いた。
桑田 直明Naoaki Kuwata
エネルギー・環境材料研究センター 電池界面制御グループ 主幹研究員
リチウムイオン可視化のカギは“凍結”
安全性が高く長寿命な二次電池として、実用化が待ち望まれる「全固体電池」(図1)。リチウムイオンの伝導性の低さという課題に対し、NIMSでは材料開発の側面から克服を目指す一方で(→Research Highlights 01参照)、観察技術の高度化によりメカニズム解明に挑んでいるのが桑田直明だ。

「全固体電池の内部には、電極材料と固体電解質、細かく見れば、固体電解質を構成する粒子同士などさまざまな界面が存在し、それがリチウムイオン移動の障壁となっていると考えられます。しかし、具体的にどこがボトルネックになっているのか、見極める術がありませんでした。そこで、私は各界面におけるリチウムイオンの動きを可視化する手法を開発し、全固体電池の性能向上につなげたいと考えました」(桑田)
材料中の元素を高精度に分析する手法に「二次イオン質量分析法(SIMS)」がある。これは、固体試料の表面に一次イオンを打ち込み、叩き出された二次イオンを質量分析計で測定することにより、試料を構成する元素やその濃度を明らかにする手法だ。しかし、いくら「全固体電池のリチウムイオン伝導性は低い」といえども、観察という観点からすればイオンの動きは非常に速く、SIMSでは捉えられないと考えられていた。
それに対し、桑田が取り入れたのが「クライオSIMS法」と呼ばれる手法だ。これは、試料の温度を-100℃程度まで冷却し、イオンなどの動きを凍結した状態で、SIMSで測定するというものだ。当然、凍結したままでは肝心の挙動が追えないため、試料の温度を一旦上げてリチウムイオンを動かし、再び冷却し測定するという操作を繰り返す。そうしてリチウムイオンの分布を可視化し、拡散係数として定量化しようというのが桑田のアイデアだ。
2019年、ポスドクの長谷川源とともに、クライオ機構を導入したSIMS装置の構築と測定に取り組み始めた。
特定のリチウムイオンを追跡する
しかし、リチウムイオン全体が可視化できたとしても、それぞれのリチウムイオンがどこからどこへ、どのくらいの速さで拡散したのか追跡できなければ、イオン移動を妨げる要因を説明するのは困難だ。そこで、特定のリチウムイオンをいわば“マーキング”する方法として、桑田が着目したのが、同じ元素でも中性子数が異なる「同位体」である。桑田はこう説明する。
「リチウムイオンの場合、自然界には7Liと6Li、2つの安定同位体が存在します。その天然存在比は7Liが92%であるのに対し6Liが8%と、圧倒的に少ないのです。通常、固体電解質の中に6Liはほとんど存在しないといっていいでしょう。そこで、イオン交換という手法を用いてあえて試料中に6Liを導入し、その動きを調べることにしました。SIMSはとても高精度な質量分析法であり、同位体の区別が可能です。実際、これまでも酸素やナトリウムの同位体を使ったSIMSによる質量分析が報告されていました。この手法をリチウムにも適用できるだろうと考えたのです」








