Research Highlights 03

「ペロブスカイト太陽電池」 実用化の壁に立ち向かう

フレキシブルなデバイスが簡易なプロセスで作製でき、早期実用化が待ち望まれている「ペロブスカイト太陽電池」。2024年2月、NIMSは発電効率と耐久性を両立した世界最高性能のデバイス開発に成功。研究開発を率いる白井康裕に現状を聞いた。

ペロブスカイト太陽電池の試作品。

ペロブスカイト太陽電池の弱点

地上に降り注ぐ太陽の光――そのエネルギーを電気へと変換する「太陽電池」は、今や一般住宅にも広く普及が進み、発電効率の進歩は社会的な関心事となっている。

現在、最も普及している「結晶シリコン太陽電池」に対し、独自の利点をもってその後を追うのが「ペロブスカイト太陽電池」だ。これは「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造の物質(図1)を用いた太陽電池のこと。100℃程度の低温環境下で、基板への塗布や印刷という簡易なプロセスで作製できる。基板にプラスチックフィルムを用いれば、軽量でフレキシブルな太陽電池の作製も可能だ。発電効率は、結晶シリコン太陽電池と同水準に迫る。

図1 ペロブスカイトの結晶構造
Aサイト(Cs、Rbなど)、Bサイト(Pb、Snなど)、Xサイト(I、Br、Cl)の3元系から成る結晶構造。

しかし、ペロブスカイト太陽電池は未だ普及に至っていないのが現状だ。その主な要因は、耐久性にある。内部に酸素や水が浸入することで結晶に欠陥が生じ、発電効率が大きく低下してしまうのだ。また、太陽電池の表面温度は夏場の屋外では80℃にも達するため、熱と光との作用によりさまざまな部位が劣化し、寿命が低下してしまうという課題もある。

そうした中、白井康裕が率いる「太陽光発電材料グループ」はペロブスカイト太陽電池の長寿命化を目標に、一丸となって研究開発を進めている。

酸素や水、熱から材料を守る秘策
「2Dペロブスカイト」

ペロブスカイト太陽電池は、太陽光を吸収する「ペロブスカイト層」を中心に、その上下を「電子輸送層」と「正孔輸送層」ではさんだ構造が基本だ(図2)。光エネルギーを受けると、半導体であるペロブスカイト層では電子と正孔が生じ、それぞれ輸送層を通じて両側の電極へと運ばれ、電流として取り出される。

図2 ペロブスカイト太陽電池と2Dペロブスカイトの模式図
ペロブスカイト太陽電池の主体を成すペロブスカイト結晶は、縦・横・高さ方向に連なる3D構造だ。ここで発生した電子と正孔が、上下の「電子輸送層」と「正孔輸送層」にそれぞれ流れる仕組み。白井らが開発を進める構造の場合、正孔輸送層側はガラスなどで保護される一方で、電子輸送層側は酸素や水の侵入に対策を講じる必要があった。今回、ペロブスカイト層の表面に、電子顕微鏡でようやく確認できるほどの薄さで「2Dペロブスカイト」を塗布。酸素や水のみならず、熱に対する耐久性も向上した。2Dペロブスカイトに用いた有機アミンは「ピペラジンジカチオン(PZD2+)」。

「これまで我々は、ペロブスカイト太陽電池の発電効率向上に資する材料を複数見出してきた実績があり、現在作製を進めているペロブスカイト太陽電池は、それら材料を集積したものです。その構造において、特に酸素や水の侵入が問題になるのは、ペロブスカイト層と電子輸送層との界面です。電子をスムーズに通しながらも水などからは保護したい、その手段として、我々は『2次元(2D)ペロブスカイト』に目を付けました」(白井)

 2Dペロブスカイトとは、極薄のペロブスカイト層と、有機化合物の層が交互に重なり合った物質のこと(図2右)。ペロブスカイト結晶に「有機アミン」と総称される化合物を導入すると、それぞれの層が自然に分離し、微小な粒子が形成される。

「以前から、2Dペロブスカイトが酸素や水に対して非常に安定であることは知られていました。しかし、有機アミンの層は絶縁体であり、電子の動きを阻害するという欠点があります。我々はそれでも、2Dペロブスカイトが細かい粒子になるよう制御した上でペロブスカイト層の表面にごく薄く散りばめれば、電子の動きを阻害することなく酸素や水、熱から守ることができると考えたのです。その目論見は見事に当たりました」(白井)

白井らは、2Dペロブスカイトをペロブスカイト層の表面に形成する手法を開発。これを組み込んだ1cm角の太陽電池は、実用環境に近い60℃の高温下で、発電効率20%以上を維持しながら、1000時間連続発電を実現した。

世界に先駆けて、高い耐久性を実現できた理由を、白井はこう振り返る。

「2Dペロブスカイトに用いる有機アミンとして、最適な大きさの粒子を形成する物質を選択できたことです。有機アミンの種類によって、2Dペロブスカイトの形成しやすさや各層の厚み、粒子サイズは変わります。今回、約50種類の有機アミンの中から1年以上にわたるスクリーニングを経てようやく発見した物質であり、試行錯誤の連続でした。今後は、データ駆動型研究の導入を視野に、データベースの整備にも着手しています」

1 2>