Research Highlights 04

独自装置で水素の液化に成功! 「磁気冷凍技術」の現在地

水素を低エネルギー・低コストに運ぶため確立が急がれる、水素の液化技術。その実現に向けNIMSは「磁気冷凍システム」の開発に取り組み、2021年に液化を実現した。神谷宏治と夏目恭平にその舞台裏と次なる挑戦について聞いた。


水素社会の切り札「磁気冷凍技術」

燃料として燃やしてもCO2を排出しないクリーンなエネルギー、水素。メガソーラーで発電したエネルギーを海外から輸送するためのキャリアとしても有望視されている。

水素を効率よく輸送・貯蔵するには気体の水素を液化し、体積を圧縮することが望ましい。そのためには、水素を20K(-253℃)という極低温まで冷やさなければならない。それ自体は、既存の「気体冷凍技術*1」を使えば可能だ。しかし、この方式では大型の圧縮機を中心とした機器の稼働に多くのエネルギーが費やされ、液化効率(投入したエネルギーのうち液化に使われるエネルギーの割合)は25%にとどまる。より高効率な液化を実現するべく、NIMSでは「磁気冷凍技術」の研究開発に注力しており、本誌でもその動向を紹介してきた*2

*1 気体冷凍技術…断熱状態の中で、冷媒となる窒素ガスやヘリウムガスを圧縮して温度を上げて放熱。次に、冷媒ガスを膨張させることで温度を下げて吸熱。この圧縮と膨張を繰り返すことで、極低温まで冷媒ガスを冷やしこれを使って水素を液化する方法。
*2 『NIMS NOW Vol.19 No.4 水素、液化革命。』『NIMS NOW Vol.22 No.2  2021→2022 その先を描く

磁気冷凍とは、簡単にいえば、磁石を使った冷却技術だ。通常、磁性体中の電子スピンの向きはバラバラだが、断熱状態にある磁性体に磁石を近づける(励磁する)と、エネルギーが熱として放出される。今度は磁場を除去する(消磁する)と、電子スピンの向きが再びバラバラになるのに伴い、周囲から熱エネルギーを奪い、温度が下がる。この「磁気熱量効果」と呼ばれる現象を利用し、磁性体に磁場をかけたり除去したりを繰り返すことで温度を下げていくのである。気体冷凍とは異なり、大きな圧縮機を動かすエネルギーが不要で、液化効率は理論上50%に及ぶ。水素社会実現に向けた気運が高まる中、米国でも磁気冷凍技術による水素液化プロジェクトが走るなど、注目度が高まっている。

“世界初”から始まった挑戦

しかし、磁気冷凍にも課題はある。気体冷凍の場合、冷却できる温度領域が常温から20Kまでと幅広いのに対し、磁気冷凍の温度領域は狭いことだ。研究開発を率いる神谷はこう説明する。

「NIMSは2007年に、世界で初めて磁気冷凍による水素の液化に成功しました。『カルノーサイクル磁気冷凍(CMR)』と呼ばれる方式によるものですが、この方式で冷却可能なのは原理上、わずか5K(5℃)の温度差です。そこで、私の前任者である沼澤健則(現・特別研究員)が2018年から新たに取り組み始めたのが、『能動的蓄冷式磁気冷凍(AMR)』と呼ばれる方式です」

AMRは、磁性体と熱交換ガス(冷媒)を封入したシリンダーを使う。磁性体が発熱・吸熱したとき、そのつど、熱交換ガスを流して熱を運ばせ、シリンダーの一端を集中的に冷やしていく仕組みだ(図1)。

図1 AMRサイクルの模式図

2018年、NIMSは科学技術振興機構(JST)の「未来社会創造事業」への採択を経て、AMRシステム開発の新たなスタートを切った。目標は、77K(-196℃)から20Kまでの温度領域をAMRで冷却すること。常温から77Kまでの冷却には当面、気体冷凍技術を用いる計画とした。

2018年の時点で、沼澤は34K(-239℃)から22K(-251℃)まで冷却可能な装置の開発に成功している。だが、それを使って実際に水素を液化しようと思うと、22Kから20Kまでの温度領域の冷却を実現するために、さらなる装置の改良や磁性体の見直しを必要としていた。

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