Research Highlights 02

大規模かつ高精度な計算を実現! 第一原理計算でナノ材料に迫る

原子スケールでの物質の構造や電子状態を高精度に再現できる「第一原理計算」。中田彩子らは、原子の数に応じて膨れ上がる計算量を抑えながら、より幅広い材料に適用可能な計算手法の開発に成功。実際にナノ材料への適用も進めている。

中田 彩子Ayako Nakata

ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA) 第一原理量子物性グループ 主幹研究員


大規模第一原理計算プログラム
「CONQUEST」の進化

量子力学に基づき、原子や電子の間で生じる相互作用を求める第一原理計算は、超高温や超高圧といった実験が容易でない条件であっても物質の構造や電子状態を高精度に再現できる。しかし、最大の課題は、原子の数が増えるほど、計算量が膨大になることだ。扱う原子の数を10個から100個に増やすだけで、計算量は原子の数の3乗程度、つまり約1000倍に膨れ上がってしまうのだ。

どのように計算量を抑え、扱える原子の数を増やすか。計算科学者が抱える課題を乗り越えるために、NIMSと英・ロンドン大学、仏・ボルドー大学が共同開発しているのが大規模第一原理計算プログラム「CONQUEST」だ。このプログラムに導入されている「オーダーN法」では、通常の第一原理計算と比べ、計算量を約100分の1にまで抑えることができる。開発者の1人に名を連ねる中田はこう語る。

「CONQUESTは2020年にリリースし、その後もバージョンアップを重ねています。最近では、私たちが開発した『マルチサイト法』の導入により、材料の適用範囲が各段に広がりました」

特筆すべきは、「マルチサイト法」の導入により、従来は大規模化が困難だった金属やバンドギャップのない物質についても大規模第一原理計算が可能になったことだ。絶縁体・半導体・金属といった種類を問わず、原子数千個レベルの大規模第一原理計算を高精度かつ手軽に行うことが可能になったのである。

金属ナノ粒子触媒の
詳細な解析に成功

中田らは、自らもCONQUESTを使い、各種材料の数値計算を実行している。その一例が「金属ナノ粒子触媒」だ。これは、金属酸化物(担体)の表面に、金属ナノ粒子を固定化した物質で、水素の生成など、さまざまな反応に用いられている。ナノ粒子のサイズや、担体とナノ粒子との相互作用により、触媒活性が大きく変化する。

「特に、触媒反応の場合、電子の移動がその活性を大きく左右するため、材料の開発指針を得る上で第一原理計算は有効です。マルチサイト法の導入により、実用材料と同程度のサイズでの計算が実現したのです」(中田)

中田は今回、直径2nmの金(Au)ナノ粒子を酸化マグネシウム(MgO)担体に乗せた材料について、Auナノ粒子のサイズや形状を変化させた場合の構造と電子状態を、マルチサイト法を用いて求めた(図)。その結果、Auナノ粒子と担体との相互作用により双方に構造変化が生じることや、Auナノ粒子のサイズや形状が電子状態に及ぼす影響も明らかになったという。

「とはいえ、大規模第一原理計算によって得られる結果は複雑で、材料の特性向上に寄与する因子の抽出は容易ではありません。今後、それを効率的に抽出できるよう、機械学習を取り入れるなど、さらに研究を発展させていきたいと考えています」(中田)

図 金属ナノ粒子触媒のシミュレーション図
直径1nmおよび 2nmサイズのAuナノ粒子をさまざまな形状に切り出し、MgO 担体に吸着させた状態での安定構造、電子状態計算を行った。図は、2nmのAuナノ粒子にO2分子(赤丸)が吸着している場合について計算したもの。
スーパーコンピュータ「材料数値シミュレータ」

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中田 彩子

Ayako Nakata

ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)
第一原理量子物性グループ
主幹研究員