Research Highlights 03

ダイヤモンドに回路を描き 高圧高温の世界で材料を探索する!

地球深部のような数十万気圧を超える超高圧を生み出し、そのもとで物質の合成や、物性測定を行うことができるまでに発展を遂げてきた高温高圧実験。松本 凌 は、超高圧下での測定や試料の温度調整を容易にする新しい装置をつくり出し、新材料の効率的な探索を進めている。

松本 凌Ryo Matsumoto

ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA) フロンティア超伝導材料グループ 研究員


高温高圧実験装置の課題

「物質にかける温度と圧力を変えると、結晶構造が変化します。これは、結晶構造の異なる物質を新たに合成するのと似ています。高温高圧実験は、新材料を効率良く探索できる有力な手段なのです」

こう語るのは、超伝導体の探索を主目的として、高温高圧実験装置の開発に取り組んでいる松本だ。

数十万気圧を超える高温高圧実験では、一般的に「ダイヤモンドアンビルセル(DAC)」と呼ばれる装置が使われる。対向する2つのダイヤモンドの間に試料を挟み、両側から圧力をかけるのだ。透明なダイヤモンド越しにレーザーを照射すれば試料を加熱でき、高温高圧合成が可能となる。また、X線を照射して結晶構造を解析したり、電極を設置して電気抵抗を測定したりと、超高圧下での観察に活用されてきた。

「しかし、従来の装置では、温度の精密な制御には多くの制約がありました。また、より高い圧力を発生させるためには、ダイヤモンド同士の接触面を小さくする必要がありますが、それに伴って極小化する試料に物性測定用の電極を取り付けるのは至難の業でした。そこで私は、ダイヤモンドアンビルの表面に電極やヒーター、温度計といった回路を直接形成することにしました」(松本)

唯一無二のダイヤモンドアンビル

回路に選んだ物質は、ホウ素を高濃度で添加した「ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)」だ。 BDDは、ホウ素の濃度を高めるほど電気伝導度が高まり、低温下では超伝導体となるユニークな物質で、NIMSにはその物性や成膜方法に関する知見の蓄積があった。

松本はそれを活かし、ダイヤモンドアンビルの表面に「電子線リソグラフィ」で回路の形状をしたマスクをパターニングした後、「化学気相成長(CVD)法」でBDDの薄膜を成長させる手法を確立。温度の精密な制御と高精度な測定を可能にした(図)。

図 ホウ素ドープダイヤモンドで描いた回路の例
合成時に試料を加熱するためのヒーターと、その温度を調整するための温度計も備える。アンビルも回路もダイヤモンド製のため、耐久性が極めて高く、繰り返し使用可能だ。先端平面の直径はわずか0.3mm。


「とはいえ、円錐型のダイヤモンドの表面にそれらを施すのは困難の連続でした」と松本は振り返る。ダイヤモンドの先端から側面まで、均一に成膜するために、CVD装置のパラメータを幾度も変え、条件を洗い出した。また、ダイヤモンドは熱伝導率が高く、加熱しても熱が逃げてしまうため、測定部の周辺に用いる材料も選定を重ねた。多くの研究者や学生の協力のもとに完成したDACは、約4年に及ぶ試行錯誤の結晶だ(→特集トップページの写真)。実際に、松本は開発したDACを使い、超伝導体の探索を進めている。

「第一原理計算により新規の超伝導体が数多く予測されていますが、中には高温高圧下でしか合成できないため手つかずのものがいくつもあります。私はその1つ、『硫化スズ(Sn3S4)』を合成し、超伝導特性と結晶構造との関係を明らかにしました。このセルは、予測を迅速に検証する上で大きな戦力になります」(松本)

超伝導という現象が発見されてから100年余り。いまだに超伝導体を使った身近な製品は実現していない。画期的な超伝導体を見つけ出し、いつか製品化を果たしたいというのが、研究者としての松本の夢だ。独自のセルを携え、挑戦の一歩を踏み出した。

セルの上蓋にダイヤモンドアンビルを接着剤で固定。セル内にもう1つのダイヤモンドと試料をセットしたら蓋を閉め、加圧器にかける。

Profile

松本 凌

Ryo Matsumoto

ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)
フロンティア超伝導材料グループ
研究員