Research Highlights 04

精密合成技術で拓く 「ナノ粒子」が輝く未来

直径わずか数ナノメートルの微粒子「量子ドット」。ごく微小な空間に閉じ込められた電子のふるまいにより、特異な光学特性を示す。白幡直人らは、量子ドットそのものや、その表面を修飾した「ハイブリッドナノ粒子」の研究開発において多数の実績を挙げてきた。そして今、光電子工学からバイオまで、幅広い分野への応用を目指している。

ゼロ次元物質
「量子ドット」

半導体結晶をうんと小さく、ナノサイズの微粒子にすると、光を放ちはじめる――。そんなユニークな性質を示す半導体微粒子を「量子ドット」という。ナノサイズの“点”であることから、ゼロ次元物質とも呼ばれている。

一般に、物質が決まると発光色は一義的に決まってしまう。一方、量子ドットはサイズを変えるだけで、発光波長や光吸収波長がさまざまに変化する。これは「量子閉じ込め効果」と呼ばれる現象によるものだ。しかも色の純度が高く、発光効率に優れるという特長から、すでにディスプレイなどに応用されている。

しかし、既存の製品中の量子ドットには、カドミウム(Cd)や鉛(Pb)など、毒性の高い元素が含まれる。そこで白幡らは、毒性の低い元素を使って高い発光効率 / 吸光度を持つ量子ドットをつくり出すとともに、再現可能な色域の拡張に挑んでいる。また、デバイスのプロトタイプの作製も推進中だ。

環境と生体に
やさしい材料を目指して

1990年頃に、シリコン(Si)結晶を微粒子化すると、暗赤色の光を放つことが発見された。発光するシリコンの発見によって、従来の電子回路に比べて高速処理が可能な技術として期待を集めるシリコンフォトニクス向けの光源が実現できるのではないかという、大きな期待が生まれた。また、シリコンは地球上に豊富で、環境や生体にとって無毒なため、たとえばバイオ分野など、量子ドットの応用範囲を拡げる存在としても期待されている。しかしながら当時、その発光効率は数パーセントと小さく、実用化にはほど遠いものだった。以降、「シリコン量子ドット」は半導体研究における一大トピックとなり、白幡らも発光効率の向上に取り組んできたという。

その中で白幡が注力したのは、発光効率を低下させている「欠陥」を特定することだった。さまざまな解析技術を駆使し、量子ドット表面が、原子の規則的な配列を持たない非晶質膜に覆われていることを明らかにした。そして、その非晶質構造中にある、共有結合の相手を失った未結合手こそ、欠陥として発光効率を低下させているとにらんだ白幡は、欠陥に他の分子やイオン(リガンド)を結合させることにより、シリコン量子ドットを安定化させようと考えた。 白幡はこう振り返る。

「解決策となったのが、シリコン表面を有機分子で修飾処理するという方法です。有機分子がシリコン表面を終端する役割を担うことで、非晶質膜の形成を抑制できることを見出したのです。一方で、有機分子と結合しないシリコン最表面層のみを酸化させることで、シリコン結晶内に電子やホールといった光励起キャリアを閉じ込めることができました。2010年には、シリコン量子ドットの発光効率を60%まで引き上げることに成功しました。これら量子ドットを発光ダイオード(LED)の活性層に用いた電流注入型素子の波長領域は、従来の700~800nmという限られた領域から、590~1000nmまで広がりました」

このように、有機物と無機物を精密に組み合わせることで発光効率などの機能を非線形的に増強させた量子ドットのことを、白幡は「ハイブリッドナノ粒子」と呼んでいる。以降、そのコアである量子ドットと、それをハイブリッド化するための処理方法の開発、これが白幡らの研究の中心となった。

シリコン量子ドットの
発光色を拡張

量子ドットそのものに関する成果としては、2020年に発表した、シリコン量子ドットの発光色の拡張が挙げられる。

「シリコンのような、本来は発光特性を持たない間接遷移型半導体がナノサイズ化によって強発光体へと変化を遂げる、という科学的なインパクトに加え、有害物質の規制を背景に、世界中でシリコン量子ドットの研究が進みました。そうした中、2014年頃に『理論上、シリコン量子ドットのサイズ制御によって変調可能な発光色は、590~1050nmに相当するオレンジ色、赤色および近赤外が限界で、それよりも短波長域を実現することはできない』という論文が発表されました。しかし、私はその内容に大きな疑問をもちました」(白幡)

赤色を発するシリコン量子ドットの直径は約2nm。白幡らは、それよりもサイズの小さい量子ドットの合成に挑み、直径1.1~2 nmの間で6サイズをつくり分けることで、サイズに依存して緑色、緑黄色、黄色の光を放射する新しい量子ドットの開発に成功。ライブラリーを拡充した(下写真)。

今やシリコン量子ドットは、近赤外光~可視光~近紫外光という幅広い発光領域を再現するに至り、実用化に向け、キャリア移動度の増大と長期間安定して発光させる手法の開発へとステージが移行している。

粒子サイズを変えてつくり分けた量子ドットの発光。実は、左6色と右3色とでは詳細な発光メカニズムが異なる。基本的な発光メカニズムは同じで、価電子帯の電子が光によって励起され、いったん伝導体に遷移したあと、再び価電子帯に戻ってホール(正孔)と再結合したときに、光を放つ仕組みだ。左6色は、価電子帯の上端に位置するホールと、伝導帯の底に位置する電子が結合する「バンド端発光」によるもの。右3色は、ハイブリッド化によって、励起された電子の再結合先を変えるようにナノ構造を制御したことで起こる「界面発光」によるもの。いずれも、粒子サイズによって発光色は変化する。

III-V族半導体量子ドットの
高品質化を導いた
「コヒーレントコアシェル構造」

また2022年には、Ⅲ-Ⅴ族半導体の一種であるリン化インジウム(InP)を使った量子ドットの高品質化を実現している。

Ⅲ-Ⅴ族半導体は光励起キャリアの移動度が高いことから、受光素子の活性層に適しているが、Ⅲ-Ⅴ族半導体を量子ドット化すると表面に欠陥が生成され、キャリアの捕捉源として働いてしまうため光電流として取り出せず、デバイス化には至っていなかった。

この問題を解決するために、白幡らは「コヒーレントコアシェル」と称した新しいナノ構造を発表した。これは、あたかも卵のように、コア(核)結晶をシェル(殻)結晶で覆った構造のこと(図)。コアとシェルは互いに異種半導体であるにも関わらず、同一の格子定数を取るように、互いの結晶格子が相対的に膨張・収縮して疑似単結晶化した構造を形成する。

図  コヒーレントコアシェル構造の模式図

白幡らは、コアにリン化インジウム量子ドットを、シェルに硫化亜鉛を用いたハイブリッドナノ粒子をフォトダイオードの活性層に用いて、外部電極へ光電流として取り出すことに成功した。これは、コア結晶中に生成した光励起キャリアがコアシェル構造全体に存在できるためである。

「リン化インジウムの方が硫化亜鉛よりも格子定数が大きく、その差は7%もあります。そのため、ただ単に硫化亜鉛で覆うだけでは界面に欠陥が数多く発生してしまいます。そうした中、コンピュータシミュレーションによって、『硫化亜鉛の厚さを3原子程度にすれば、界面で格子定数の整合が起こり、欠陥のない構造ができる』ということを確認していました。そのとおりに、硫化亜鉛を3原子程度の厚さにしてきれいに覆う合成プロセスを開発し、その課題を解決したのです」(白幡)

この技術の確立により、ほかのⅢ-Ⅴ族系など、量子ドットに利用可能な半導体の選択肢が広がった。

ナノ粒子を4.2ケルビン(−269℃)まで冷却することで、外部の熱エネルギーから受ける影響を最小限に抑えた状態で光学特性が測定できる装置。

ナノバイオへの応用に注力

自身の強みについて「ナノ結晶の精密合成技術にある」と語る白幡。今後、独自に開発してきた量子ドットの応用にも注力していく。

「量子ドットに光を当てたとき、電気に変換したいのか、熱を出したいのか、あるいは電気から熱に変換したいのか……目的とする機能によって、コアとなる量子ドットの表面修飾法は異なります。あらゆる合成手法の知見を蓄積してきた今、社会に貢献できる材料を世に送り出したいと思っています」(白幡)

見据えている応用先は、LEDや光検出器などの光エレクトロニクス素子に加え、光を熱に変換する光熱変換素子、さらには、がんセラノスティクス素子など多岐にわたる。たとえば、ドラッグデリバリーシステムと組み合わせたがんワクチンなどの用途を念頭に、ハイブリッドナノ粒子の最適化に挑んでいる最中だ。

「資源性に富み、環境にも人体にもやさしい材料という特長を生かして、ぜひナノバイオへの応用を実現していきたいですね」と白幡は語る。

Profile

白幡 直人

Naoto Shirahata

ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)
ナノ粒子グループ
グループリーダー