Research Highlights 05

熱を劇的に阻害するメカニズムを解明! 理論計算で迫る熱電材料の高性能化

日々、大量に放出されている排熱。その有効利用に向け、熱を電気に直接変換できる「熱電材料」の研究開発を進めるNIMSは、希少元素を大幅削減しながらも世界最高レベルの熱電変換効率を示す材料の開発に成功。材料中の熱の伝わり方の理論的解明を担った佐藤直大に話を聞いた。

佐藤 直大Naoki Sato

ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA) 熱エネルギー変換材料グループ 研究員


熱電材料のつまずき

200年以上前に、物質の温度差が電圧に直接変換される現象「ゼーベック効果」が発見されて以来、熱電材料の研究開発が世界中で進められてきた。しかし、いまだ一般に広く普及するまでには至っていない。

電気と比べて、熱の制御は圧倒的に難しい。熱を余すことなく電気に変えるためには、物質の熱伝導率を下げる一方で、電気伝導率を高める必要がある。しかし、物質の多くは、電気伝導率を高めると熱伝導率までも高まってしまうのだ。

それでも研究者たちの努力により、ビスマス・テルル系(Bi-Te系)や鉛・テルル系(Pb-Te系)といった熱電材料が開発されてきた。特にBi-Te系の材料は、室温付近における最高性能の記録を守り続けて50年以上が経つ。しかし、Teには人体にとって毒性がある上、希少元素であることが普及の妨げとなってきた。

そうした中、2016年に日本企業が、より資源豊富で毒性が低い、マグネシウム・アンチモン系(Mg-Sb系)の熱電材料を発表し、世界中の関心を集めた。ただし、その熱電変換効率は室温付近ではBi-Te系に遠く及ばず、性能向上に向けたMg-Sb系材料の探索が熾烈化している。

シミュレーションで見出した
熱を阻害する「隙間原子」

固体中における熱の主たる担い手は「フォノン」だ。フォノンとは、原子の振動、いわゆる格子振動であり、原子スケールからメートルオーダーまで極めて広範囲の特性長を持ったフォノンが熱を輸送する。しかも、熱伝導には結晶中の欠陥や微細な材料組織などが複雑に関与しており、それらを同時に制御しなければならないところに熱制御の難しさがある。そうした中、「熱エネルギー変換材料グループ」は2021年に、わずかな銅(Cu)を添加したMg-Sb系材料を開発。従来のMg-Sb系材料を凌ぐとともに、Bi-Te系材料にも匹敵する熱電特性を実現した。それはすなわち、電気伝導率を高める一方で、熱伝導の大幅な抑制に成功したことを意味する。どのようにして開発材の中で熱が阻害されているのか、佐藤はその謎の解明に取り組んだ。

「私は、原子や電子のふるまいについて、第一原理計算によるコンピュータシミュレーションを実施しました。従来のMg-Sb系材料では、構成元素の一部を他元素に置き換えることで高性能化が実現していました。ところがシミュレーションの結果、私たちのグループで開発した材料では、他元素への“置き換え”ではなく、結晶格子の隙間に原子が“挿入”されている可能性が見出されました」

そこで、再び第一原理計算を行い、最もCuが挿入されやすい結晶格子中の位置を特定した上で、フォノンの状態の変化をシミュレーションした。すると、挿入されたCuによって局所的に結晶が歪むことで、効果的に熱を阻害するフォノン状態が実現していることが示唆された(図)。

図  結晶格子の隙間に挿入された原子が熱伝導を阻害するイメージ図
Mg-Sb系材料の結晶格子中の特定の位置にCu原子を挿入することで、熱を運ぶフォノンの伝導を効果的に阻害し、劇的に熱伝導率を減少させることができる。

「観測された極めて低い熱伝導率は、結晶格子の隙間へのCu挿入という、原子スケールのわずかな変化によって引き起こされたものです。また、熱電材料はナノからミクロンまで幅広いスケールの制御を要し、そこではシミュレーションが大いに力を発揮します。さまざまな手法を組み合わせることで、広く普及するような新しい高性能材料を見出したいと思っています」と語る佐藤。200年以上に及ぶ科学者たちの夢に、理論計算の活用によって迫ろうとしている。

Profile

佐藤 直大

Naoki Sato

ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)
熱エネルギー変換材料グループ
研究員