Research Highlights 01
顕微鏡の探針で分子を合成! 「単分子化学」の最前線
2024.09.30
物質・材料の原子・分子レベルでの構造解析や評価に不可欠な「走査型プローブ顕微鏡(SPM)」。
近年は観察・評価だけでなく、原子・分子を操作して物質を合成する「単分子化学」のツールとしても注目されている。
当分野の開拓を続ける川井茂樹に、最新成果を聞いた。
川井 茂樹Shigeki Kawai
マテリアル基盤研究センター ナノプローブグループ グループリーダー
注目度が高まる「単分子化学」とは
「走査型プローブ顕微鏡(SPM)」は、プローブと呼ばれる先端のとがった探針を使って物質の表面を走査する(なぞる)ことで、物質表面の形状や電子状態を原子レベルの分解能で観察できる顕微鏡の総称だ。主に、プローブと試料との間に発生する原子間力を検出する「原子間力顕微鏡(AFM)」、トンネル電流を検出する「走査型トンネル顕微鏡(STM)」がある。
だが、その用途はいまや「単なる観察ツールにとどまらない」と川井は言う。
「約15年前、海外の研究機関から『プローブの先端を一酸化炭素分子で終端すると、SPMの空間分解能が大幅に向上する』という成果が発表されました。それまで識別できなかった分子の内部骨格まで、詳細に観察できるようになったのです。加えて、プローブの制御性が格段に向上し、ピコメートル(ピコは1兆分の1)の精度で3次元の位置決めが可能になりました。そうした背景のもと、分子の特定の位置にトンネル電流を流して結合を切断したり、分子を合成したりする、いわゆる『単分子化学』が一気に盛んになったのです」
有機分子の合成といえば、溶液中での化学反応を利用する手法が一般的だ。しかしその場合、単分子レベルで分子構造を操作するのは難しい。一方、SPMを使えばボトムアップ方式で原子・分子を操作できるため、原子や電子間で働く相互作用を利用した革新的な素子をつくり上げることも夢ではない。川井は、SPMによる単分子化学の発展を牽引してきた研究者の1人だ。スイス・バーゼル大学在籍時に構築を開始したAFMとSTMの複合装置(以下、AFM/STM)の改良を重ねながら、ボトムアップだからこそ実現可能なナノ構造体の合成を進めている。
次世代のエレクトロニクス材料として期待大!
「炭素ナノ構造体」の可能性
川井が注力しているのが、優れた電気伝導性と強靭さを併せ持つグラフェンをはじめとした「炭素ナノ構造体」の合成だ。中でも、グラフェンが数ナノメートル幅のリボン状に連なる「グラフェンナノリボン」はバンドギャップを持つ半導体であり、その幅やエッジの形に応じて物性が変化することから、次世代エレクトロニクス材料として注目度が高い。
「新たなナノデバイスの創出に向けては、グラフェンナノリボンに炭素以外の原子や分子を付加することでさまざまな機能を持たせたい、という要望が高まっています。ただし、そのためにはプローブを使って既存の原子をいったん取り除いたところにくっつけるという操作を要します。原子を取り除いた部分は『ラジカル』と呼ばれる反応性の高い状態になって基板表面の原子や分子とすぐに結合してしまいやすく、その制御は容易ではありません。そこで、NIMSと大阪大学を中心とする共同研究チームで取り組んだのが『3Dグラフェンナノリボン』の合成です」(川井)










