Research Highlights 02

「量子ビーム」で物質の真髄を解き明かす

大型量子ビーム施設の拡充が進み、原子や電子がどこにどのような状態で存在しているか、詳細な解明が可能になっている。小原真司は量子ビームを活用し、謎多きガラスの高機能化を推進中だ。一方、計測手法の開発に取り組む矢治光一郎は、大型施設並みの精度を誇る計測装置を実験室内に構築。それぞれの最新研究について2人に聞いた。


拡充が進む量子ビーム施設

光や中性子などの量子性を持つ粒子を細く絞り、向きを揃えて放出する「量子ビーム」。これを物質に照射し、回折・散乱のパターンを得ることで、原子や分子の配列や電子状態を詳細に調べることができる。世界各国で大規模な量子ビーム施設の拡充が進み、実験室レベルでは到達困難な高い空間分解能を実現。材料科学の最先端を切り拓く強力な武器となっている。

日本国内にも複数存在する量子ビーム施設だが、生成するビームの種類はさまざま。測定物質や目的に応じて使い分ければ多角的な解析が可能になる。

例えば「SPring-8」や「Photon Factory(PF)」で生成される硬X線ビームは、物質内部の重元素を敏感に捉え、原子配列や結晶構造の特定を得意とする。一方で、酸素や水素のような軽元素を捉えるには、中性子ビームが向く。実験施設としては「J-PARC」が代表的だ。

さらに、2024年4月に運用が開始された「NanoTerasu」では、既存施設より高輝度な軟X線ビームが利用でき、物質表面の電子状態や化学結合状態を世界最高レベルの分解能で解析できるようになった。物質を観る“目”の選択肢は広がっている。

解かれゆくガラスの謎

ガラスや液体の構造解析の専門家で、SPring-8やJ-PARCにおける解析データをもとに高機能ガラスの実現に大きく貢献してきた小原は、ガラス研究の現状と量子ビームの貢献についてこう語る。

「近年、ガラスのニーズは多様化しています。スマートフォンのカバーガラスには、軽量かつ硬くて割れないガラスが、インターネットを支える光ファイバーケーブルには、信号の伝送損失が少ないガラスが求められています。その実現には、ガラスの組成や構造の情報が欠かせません。その上で最適な条件を選択し、製造プロセスを制御する必要があるのです。しかし、ガラスは結晶構造を持たないアモルファス物質であるうえに、多様な元素が複雑に混ざり合うため解析が難しく、その生成メカニズムは長年の謎でした。それがこの10年ほどの間に、量子ビームを使った解析が進み、ようやく謎が解明されつつあるのです」

その最新成果として小原は、企業と共同で取り組む「結晶化ガラス」を挙げた。本来は結晶性を持たないガラスだが、熱を加えて超微細な結晶を析出させることにより機械的・熱的強度や化学的耐久性を高めたものを、結晶化ガラスと呼ぶ。

小原のグループはSPring-8を中心に、X線異常散乱(AXS)、X線吸収微細構造解析(XAFS)、X線小角散乱(SAXS)といった多様な手法を駆使し、マルチスケールかつ元素選択的に解析を実施。その結果、原料にジルコニウム(Zr)を添加することで結晶化ガラスの強度と耐熱性が向上するメカニズムを突き止めた(図1)。

図1  SPring-8における解析の結果に基づき描いた結晶化ガラスのナノスケール構造
左は少量のZrO2を添加した「リチウムアルミノシリケートガラス」。右はそれに熱処理を施した「結晶化ガラス」の形成初期段階。緑の濃淡はZrの分布濃度を表す。処理後はZrの凝集が進み、Zrの少ない結晶化していない領域(ガラス)と、Zrが豊富な領域(ZrO2結晶核)に分離している。
今回、その際の結晶構造の変化を詳細に解析した。その結果、ZrO2結晶核においてZrOn多面体と(Si/Al)O4から成る四面体が稜を共有した状態(左下図、黄色の領域)で 強固に結合するとともに、それらの繰り返し構造を形成していた。この秩序構造が、結晶化ガラスの透明度と耐熱性向上において重要な役割を果たしていることを明らかにした。

「これはSPring-8がなければ絶対にできなかった仕事です。一方で、ガラスの開発競争に勝つには実験だけに終始していてはダメで、データ科学の力が欠かせない、というのがこの分野の共通認識となっています。いま、同じセンターに所属するデータ科学の専門家らと連携し、これまで取得してきた大量のX線回折データを集約したデータベースの構築を進めています。NIMSでガラスに関する世界最大級のデータベースを構築したいと思っています」と意欲を燃やす。

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