Research Highlights 03
AIと自動実験ロボットを連携! 全自動で材料探索を
2024.09.30
材料の合成や評価を自動で行う実験ロボットと、データを解析し次の探索領域を提案する人工知能(AI)。田村は、両者をつなぐミドルウェア「NIMS-OS」を開発。シームレスな連携を叶え、データ駆動型材料開発の発展に寄与している。
田村 亮Ryo Tamura
マテリアル基盤研究センター データ駆動型アルゴリズムチーム チームリーダー
6年かかる探索を1カ月で。
AI開発で材料研究を後押し
データを活用し、高効率・高速に探索を行う「データ駆動型」の材料開発。田村は、材料科学とデータ科学との融合が模索されはじめたその黎明期から、データ解析用AIの開発に尽力してきた研究者の1人だ。NIMS内外の材料研究者にAIを提供し、材料探索期間の大幅な短縮に貢献してきた。
たとえば2023年には、エネルギー・環境材料研究センターの坂牛健による水電解用の電極触媒材料の探索に、田村が開発したAIを活用。その結果、高価で希少な白金系の既存材料に匹敵するほど高い活性を持ちながら比較的安価な新材料を、わずか1カ月で見出すことに成功した。人力で網羅的に実行すれば6年間はかかる探索期間を大幅に短縮したこの成果は、AI活用の威力を示す好例と言っていいだろう(→Vol.25 No.3 Research Highlights 01に関連記事)。
「材料の種類はもちろん、探索の目的によっても構築すべきアルゴリズムは異なります。これまで合金材料や磁性材料、太陽電池材料、電解質材料など、さまざまな材料研究者との協業のもと、それぞれのニーズに応じたAI開発を進めてきました。現在、10種類以上のアルゴリズムを『データ駆動型アルゴリズムチーム』のウェブサイト上に公開し、誰でも自由に使えるようにしています」(田村)
AIと自動実験ロボットとの仲介役
「NIMS-OS」とは
一方、AIを使った材料探索には、効率化の面でさらなる改善の余地があると田村は感じていた。
AIの予測精度を高めるには、実験・計測データを大量に読み込ませ、機械学習させる必要がある。その点、近年、実験現場で導入が進む「自動実験ロボット」は、統一的かつ大量のデータを生み出すことからAIにとって絶好の“教師”となる。かたや実験側も、AIから次の探索領域の提案を受けることによって効率的な探索が可能となり、両者が連携するメリットは大きい。田村は実際に、エネルギー・環境材料研究センターの松田翔一が運用する電気化学自動実験ロボット「NAREE」*1のデータ解析に、自身が開発したAIを導入。材料探索に貢献してきた。
*1 NAREE
主にリチウム空気電池の電解液探索を目的に開発された自動実験ロボット。ずらりと並ぶセルの各穴(負極・政局・セパレータが仕込んである)に、混合比率を変えた電解液を自動で分注し、その性能評価まで実施可能。
その中で避けて通ることができなかったのが、人間が実験データを受け取りAIに入力する、というプロセスだ。田村は人手を介すこの作業が、探索における律速要因になっていると感じていたのだ。
「完全に自律かつ自動で材料探索が進むことが理想ではあるものの、AIと自動実験ロボットは個別に開発が進んできたため、連携させる術がありませんでした。そこで私は両者をつなぐミドルウェアの開発に着手しました。そうすれば、高速かつ24時間休みなく実験を続けることもできますし、人的ミスの防止にもつながります。結果として、探索期間の短縮につながり、一石二鳥にも三鳥にもなります」(田村)
そして実際に開発を進めること約1年半、2023年7月に公開したのが「NIMS-OS(Orchestration System)」だ。
NIMS-OSの特徴は、AIと自動実験ロボットをそれぞれモジュールとして扱うことにより、さまざまに組み合わせられるよう設計してあることだ。その使い方は、まず自動実験ロボットを制御するパソコンにNIMS-OSをインストールする。次にAIの種類*2やサイクル数、入出力先などの各種設定を行い、実行ボタンを押せば、自律かつ自動的に探索が進む(図)。
*2 ベイズ最適化手法「PHYSBO」、材料の特性の限界を知るための無目的探索手法「BLOX」、相図・状態図を作成するためのアクティブラーニング手法「PDC」の計3種類を搭載。

NIMS-OSは主に3種類のプログラムで構成されている。1つ目は、材料候補ファイルをもとにAIで次に実験すべき材料候補を選定し、データ出力を行うもの(水色囲み)。2つ目は、データファイルを自動実験ロボットが読み取り可能な形式へと変換し、実験スタートの指示を出すもの(オレンジ囲み)。3つ目は、自動実験ロボットから終了の信号を受けて実験結果を解析し、材料候補ファイルをアップデートするもの(黄緑囲み)。これらサイクルを回すことで、自動実験ロボットによる自律自動材料探索を実施できる。
「開発にあたりこだわった点は、汎用性です。複数種類の材料探索用AIを搭載しており、目的に応じて組み合わせることが可能です。また、ユーザーが独自にオリジナルのAIを追加することもできます。こうした探索のアルゴリズムを、データ駆動型の材料開発に乗り出したばかりの研究者が一から組み上げるのはとてもハードルが高いものです。それに対し、誰もが平易に実行できることを目指しました。現在、ウェブサイト上にオープンソースソフトウェアとして公開しています」(田村)
リチウム電池の電解液探索に成功
自律自動実験において生成されるデータの数々は、他のデータ駆動型材料開発を支援するうえでも大きな財産となる。特にNIMSは、世界最大級の材料データプラットフォーム「DICE」*3の構築を進めることで、日本におけるデータ駆動型材料開発の中核としての責務を果たそうとしている。
「NIMS-OSには、実験で得られたデータを『RDE』*4というDICE内のデータ登録システムを通じ、任意でDICEにて他の登録データと統合する機能を搭載しています。実際、NAREEで取得したデータが日々RDEを通じて蓄積されることで、他の材料探索の糧になっているのです。個々の材料研究者のニーズに応えるのみならず、日本のデータ駆動型材料開発の発展に貢献していきたいと願っています」と田村。
材料研究者の誰もが、データ駆動による恩恵を享受できるステージを目指して。田村は材料研究者のニーズを汲み上げながら、その手法を進化させていく。
*3 DICE
「Digital Innovative Collaborative Ecosystem」の略。材料データの入り口(集める)から出口(使う)までを一貫して扱う画期的なシステム。
*4 RDE
「Research Data Express」の略。データをオンライン登録するだけで、自動的にフォーマットの共通化やメタデータ抽出といった処理が施され、”使えるデータ”としてDICE内に蓄積してくれる。
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