Research Highlights 01

「液晶高分子アクチュエータ」で 柔軟性と出力を両立する

電気や油圧などのエネルギーを機械的な動きに変換する「アクチュエータ」。近年、ソフトなアクチュエータのニーズが高まる中、吉尾正史は「液晶」ならではの特性を活かした新材料を次々と生み出している。


「柔軟で高出力」というジレンマ

遠く離れた場所にあるモノを、直接触っているかのような感覚が味わえる——この「ハプティクス」と呼ばれる触覚技術に不可欠なのが、モノの感触を力や振動、動きによって伝達する「アクチュエータ」だ。将来、触覚の繊細な再現が可能になれば、遠隔診療での触診や仮想空間での体験は現実さながらとなり、未来はさらに彩り豊かになるに違いない。

そうしたニーズの高まりに伴い、金属材料が中心だったアクチュエータも、しなやかに曲がり、力の強弱を自在に操ることができるソフトな材料が求められている。代表的なものが「高分子膜アクチュエータ」だ。これは、イオンを含む高分子膜を柔軟な電極ではさんだもの。電極に電圧をかけると、高分子膜の中で陽イオンと陰イオンの分布にかたよりが生じ、より小さい陰イオンが集まった電極側に向かって曲がる(図1)。この原理をアクチュエータとして利用している。

図1 電極に電圧をかけると、高分子膜中に含まれる陽イオンは負極へ、陰イオンは正極へと移動する。陰イオンのほうがイオン半径は小さいため、正極側に向かって膜全体が曲がる。

「目下の課題は、低電圧で高速に大きく変形させることです。しかし、高分子膜は、高分子の長い鎖が絡み合ってできていて、その中をイオンがぶつかりながら移動していきます。それをしのいで高速に大きく変形させるには、高分子膜のイオン含有量を増やす方法が考えられますが、それにしたがって高分子膜は柔らかくなり、今度は強い力が出せなくなるのです」(吉尾)

イオンの通り道を自然に組み上げる

適度な柔軟さを保ちつつ出力を高めるためには、イオンがスムーズに伝導する材料であればよい。では、材料中にイオンの通り道をどうつくるか、吉尾はこの課題に「光架橋液晶高分子」を用いて挑んできた。

液晶高分子は、棒状や円盤状の分子がゆるやかな規則性をもって並んだものだ。中でも、光の照射によりその配列構造を固定化できるものを、光架橋液晶高分子と呼ぶ。

「液晶を用いる利点は、規則的な構造が自己組織化によって形成される点です。その構造には、カラム構造やジャイロイド構造などいくつか種類があり、出発点となる液晶分子の設計次第で、狙った構造へと組み上げることができます。さらには、光架橋性を付与することでフィルム化などが可能になり、デバイス設計の自由度が高まります。複雑な製造プロセスが不要なため、低コストで多様な機能性材料を作製できる点が魅力です」(吉尾)

具体的に、どうやってイオンの通り道をつくるのだろうか。まず“出発点の液晶分子”には「イオン性液晶高分子」を用いる。これは液晶高分子の中でも、イオンが流動しやすい性質のものを指す。設計次第で、光架橋性を組み込むことが可能だ。そこに、陽イオンと陰イオンのみで構成された「イオン液体」を混ぜ合わせる。イオン液体だけでは秩序構造を持たないが、イオン液晶性高分子と混合すると、部分的に相互作用が生じ、液晶の秩序構造中にイオン液体が入り込む。それがイオンの通り道となるのだ。

吉尾は、さまざまな液晶構造におけるイオン伝導性を調べ、応用先の開拓を進めてきた。2022年には、カラム構造からなる光架橋液晶高分子アクチュエータを開発し、従来の高分子膜アクチュエータよりも柔軟で高出力な材料の開発に成功している。

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