Research Highlights 02

次世代蓄電池の寿命向上へ 「高分子ゲル」の新展開を拓く

“固体と液体の中間”とも形容される、軽くて柔軟性に富む「高分子ゲル」。玉手亮多は、その構成要素である高分子と溶媒との相互作用を制御することにより、ユニークな特性をもつ高分子ゲルを多数つくり出し、その応用先の開拓を精力的に進めている。


高分子と溶媒との相互作用をデザイン

「高分子ゲル」は、鎖状分子の3次元網目構造からなる高分子が、その内部に溶媒をたくわえて膨潤したものだ。玉手は、高分子と溶媒との相互作用に着目し、溶媒にイオン伝導性の電解液を用いる「高分子ゲル電解質」の機能開拓を進めてきた。

その一例が2022年に発表した、高い強度と自己修復機能を兼ね備えた「自己修復イオンゲル」だ。このゲルは破損しても、破損部分周辺の高分子鎖が物理的に再び絡み合い、元の状態に戻る(図1)。しかも、1トンもの荷重に耐える力学強度を示し、再成型してリサイクルが可能というユニークな特性を備える(図2)。

図1 「自己修復イオンゲル」の内部では、鎖状分子が高密度かつ複雑に絡み合っている。玉手は、溶媒の「イオン液体」の中でモノマーを重合するという簡便な方法により、分子量が100万を超える高分子(超高分子量ポリマー)の絡み合いからなるゲルが作製できることを見出した。
図2 「自己修復イオンゲル」の力学強度試験。1トンの荷重をかけて90%圧縮しても壊れなかった。また、高分子中に化学架橋がなく、溶媒のイオン液体も不揮発性であるため、リサイクルが可能だ。

「高分子鎖の物理的な絡み合い以外にも、化学的な結合を利用する方法など、ゲルの機能を引き出すためにさまざまな戦略を取り入れています。現在、特に『リチウム金属電池』の長寿命化に向けた新材料の開発にも注力しています」(玉手)

「リチウム金属電池」の課題を打破


リチウム金属電池とは、負極材料にリチウム金属を用いた蓄電池だ。理論上は既存の「リチウムイオン電池」より高いエネルギー密度の実現が可能な一方、充放電を繰り返すうち、リチウム金属の表面に発火につながる樹枝状結晶が析出したり、金属が剥がれたりする。そのため、リチウムイオン電池
ほどの充放電サイクル性能を実現できていない。

「私はリチウム金属を保護するため、高濃度のリチウム塩を溶解させた電解液と高分子を組み合わせたゲルを設計し、リチウム金属をコーティングしました。ゲルには伸縮性があるので、充放電に伴って膨張するリチウム金属の体積変化にも追従できます」(玉手)

とはいえ、高分子ゲル最大の課題は、体積変化の繰り返しに耐える力学強度の獲得だ。今回、玉手は化学的な結合による強度向上を狙い、高分子鎖に水素結合を生じる官能基を導入。そのうえで、電解液のリチウム塩濃度を高めることにより、高分子鎖間の水素結合を阻害する溶媒分子の数を減少させることに成功した。

実際、負極のリチウム金属に高分子ゲル電解質をコーティングして耐久性を評価したところ、リチウム金属の寿命が約200時間から1000時間以上に延びた。また、高容量正極と組み合わせたリチウム金属電池の充放電試験でも、一定の容量劣化が起こるまでのサイクル数が約50回から100回以上に増えた。高分子ゲルならではの特性を活かした用途開拓は、着実に実を結んでいる。