Research Highlights 04

質量分析×AIで実現した 「ポリマーシークエンサー」

高分子は、基本構造であるモノマーが百個~数万個も連なった鎖状分子だ。日比裕理らは、高分子に多様な機能をもたらすモノマー配列の出現頻度を質量分析と人工知能(AI)の併用によって定量化する「ポリマーシークエンサー」を、世界で初めて開発した。


ランダムに配列するモノマー

私たちの身近にあふれる高分子材料(プラスチック)。その多くは、2種類以上のモノマーを組み合わせた「コポリマー」と呼ばれる化合物だ。

コポリマーは、モノマーの組み合わせが同じであっても、配列が異なればその性質や機能は大きく異なる。特にコポリマーの性質を左右するのが、モノマー数個の並び(部分配列)の出現頻度だ。部分配列とは、たとえばモノマーA・Bからなるコポリマーなら、AAA、ABABなどがそれに当たる。

重合過程でモノマーの配列を制御することは難しく、通常はランダムな配列が確率的に生成される。しかも、ランダムな配列のコポリマーに対し、部分配列の出現頻度を定量化する汎用的な解析技術が存在しなかったため、配列と材料特性の相関解析は困難で、配列に基づく材料設計に踏み込めない状況にあった。そこで、日比らが打ち出したのが「コポリマーの質量分析データをAIによって解析する」という戦略だ。

世界初の「ポリマーシークエンサー」

「複数種類のモノマーからなるコポリマーを質量分析計にかけ、600℃まで加熱すると、温度の上昇にしたがって短い断片鎖への分離・ガス化が起こり、短時間で断片鎖それぞれの質量を反映したスペクトルが得られます(図左)。このとき、コポリマーは主鎖に沿って、結合の弱い部分で確率的に切断されるため、さまざまな長さや配列の断片鎖が大量に生じます。しかも、質量が同じでも配列が異なる断片鎖が生じるため(ABAとAABなど)、質量分析データから部分配列を直接定量化するのは困難を極めます。そこで私はAIを用いて、仮に検体のコポリマーが規則的に配列したポリマーで構成されたものと見立てたとき(図中央)、規則配列ポリマーがどのような混合比で存在すれば、実測スペクトルと近似のスペクトルが得られるかを解析しました。これは『いかなるコポリマーも“規則配列ポリマーの混ぜ物”とみなすことができる』という考えに基づくものです」(日比)

さらに、AIを用いて同種の部分配列を集約し、仮想的な高分子鎖を再構築することにも成功(図右)。それにより、検体のコポリマー中における部分配列の出現頻度を定量化した。「このポリマーシークエンサーは、熱分解できる高分子材料ならば、モノマーの種類や個数に関わらず、そのほとんどが解析可能です。ただし、単一のモノマーにまで分解する場合など、適用が難しいケースもあり、さらに解析の幅を拡げていくことが目標です」と日比。高分子材料開発の新たな地平を切り拓いている。

Profile

日比 裕理

Yusuke Hibi

高分子・バイオ材料研究センター
データ駆動高分子設計グループ
研究員

〈関連プレスリリース〉高分子のモノマー配列を質量分析とAIで決定する解析手法を開発