Research Highlights 05

細胞を育むゲルの“孔”を 相分離現象の誘起でつくる

幹細胞などを移植して、病気やケガで機能を失った臓器を再生させる細胞移植治療。高分子のゲルに移植したい細胞を内包させて、生体内に投与する。西口昭広は、細胞の生着率と生存率を向上させるゲルの開発に成功した。


細胞移植の精度を高める“孔”

脊髄損傷や心筋梗塞といった治療法の確立されていない病気に、再生医療の一種である「細胞移植治療」が光明となっている。現在注目されているのが、移植したい細胞を「インジェクタブルゲル」に内包させて体内に注入する方法だ。

インジェクタブルゲルとは、シリンジに充填するときは液体で、体内に投与すると何らかの刺激によって固まりその場にとどまるようデザインされたゲルだ。ただし、注入したゲルが狙った臓器に生着しないことや、生着しても細胞死(アポトーシス)が起きることも少なくない。

というのも、既存のゲルは高分子鎖が密に架橋された構造のため、細胞の成長に必要な酸素や栄養が行き渡りにくいことに加え、受け入れ側の生体組織の細胞が入り込みにくく、細胞同士のコミュニケーションが弱まる。これを改善するために、多数の孔(ポア)をもつゲルの研究が盛んに行われている。

「これまで開発されてきたインジェクタブルゲルは、孔のサイズがナノメートルオーダーのものがほとんどです。そうしたなか、私は組織接着剤という別の応用を見据えてインジェクタブルゲルの開発を進める過程で、細胞の生育に適したマイクロサイズの孔を形成する方法に気がついたのです」(西口)

マウスの血管新生を確認

西口は主に、ブタ腱由来ゼラチンに修飾を施した「UPy化ゼラチン(GUPy)」を核として、材料開発を展開してきた。
「合成したGUPyに2種類のゼラチンを混合したところ、後者が架橋により連結する一方でGUPyが会合して分離する、『液-液相分離(LLPS)』と呼ばれる現象が起こりました(図)。一般的にLLPSは、種類の異なる高分子の間で起こるものです。それが今回、混ぜ合わせたのがどれもゼラチンであるにも関わらず起こったのは、強く水素結合するUPy基の影響だと考えられます。また、GUPyは37℃に温まると自然に溶けだすよう設計してあるため、注入後、生体内で自然にファイバー状の孔が形成されます」(西口)

「UPy化ゼラチン(tGUPy)」に「チオール化皮膚ゼラチン(sGTH)」と「ビニルスルホン化sG(sGVS)」を等量ずつ混ぜ合わせ、ゲル化。sGTHとsGVSが架橋により結合する一方で、液-液相分離によりGUPyはファイバー構造を形成する。GUPyは生体内に注入された後、体温(37℃)で自然に溶出する。それによりゲル中にファイバー状の孔が形成され、酸素の透過率と細胞の浸潤率が向上した。

このゲルの中でヒト間葉系幹細胞を培養したところ、ファイバー状の孔に沿うようにして細胞が接着、伸展、遊走、増殖することが確認できた。さらに、血流障害を抱えたマウスの足に間葉系幹細胞を内包した開発ゲルを投与すると、途絶えていた足の血管が新生され、血流が再開した。

「この新たなゲルで再生医療に貢献したいと願っています。また、このゲルは3Dバイオプリンティングやドラッグデリバリーシステムへの応用も可能ですので、現在展開を進めています」(西口)

Profile

西口 昭広

Akihiro Nishiguchi

高分子・バイオ材料研究センター
バイオポリマーグループ
主幹研究員